かくれキリシタンのつぼ

 長崎市樫山町の「かくれキリシタン」が「ヨカヒト様」と呼び秘蔵していた「華南三彩壺(かなんさんさいつぼ)」が先日、市役所で初公開された。底面に記された「Escencia」(エッセンシア)という文字が、はっきり見えた▲このつぼ、約400年前にベトナムから船で運ばれ、長崎のカトリック教会で使われていたらしいから驚きだ。県と東京大史料編纂(へんさん)所の岡美穂子准教授の調査で判明した事実から、つぼの由来を想像すると-▲エッセンシアとは香油を意味する古いスペイン・ポルトガル語。つまり、つぼは元々、ミサなどで用いる「聖香油」の器として使われていた▲聖香油を作れるのは司教だけだ。当時の日本司教セルケイラは着任翌年の1599年、天草で国内初の「聖香油ミサ」を行い、つぼを用いた。その後、つぼは布教の中心地長崎で使われた▲1614年に江戸幕府がキリスト教信仰を禁じた後、つぼは潜伏キリシタン信仰の中心地だった樫山へ運ばれて隠された。そして「ヨカヒト(良か人)」が使った聖なる器として現代まで守り伝えられた-というわけだ▲かくれ信者の家では主人がつぼを隠し持ち家族にも見せなかったという。「ヨカヒト」の記憶と共に大切に受け継がれてきたつぼが、キリシタンのいちずな信仰心を物語っている。そんな気がする。(潤)

© 株式会社長崎新聞社