社説:旧文通費の見直し 国民は約束を忘れていない

 まさか時間がたてば国民は忘れるとでも考えているわけではあるまい。国会議員に毎月100万円支給される「調査研究広報滞在費」(旧文書通信交通滞在費)の見直しである。

 今国会は来月21日の会期末まで3週間余りとなったが、見直し議論が進まない。議員に不都合な変更であり、特に自民党が及び腰だ。国会の怠慢は許し難い。

 旧文通費は年間2千万円を超える歳費(給与)とは別に、衆参両院の全議員に支払われる。非課税で、本来は議員活動に伴う電話代や交通費などに充てられる手当だ。ただ、使途報告や残金の返還義務はなく、「第2の給与」とも言われてきた。

 派閥活動や事務所経費への流用もあるとされ、実態は不透明な部分が多い。市民感覚から懸け離れ、「議員特権」と批判されて当然であろう。

 衆院予算委員会では24日、野党議員が岸田文雄首相に旧文通費の改革実行を迫った。自民は、新年度予算の衆院審議終了後に議論を再開すると約束していたが、予算成立後も動きがないためだ。

 しかし、首相から前向きな答弁はなかった。見直しを巡る与野党合意は、国民への約束でもあり、たなざらしにする自民の責任は重い。党総裁として指導力を発揮すべきではないか。

 見直し論議は、2021年10月の衆院選で初当選した議員が在職1日で満額支給されたことを疑問視し、火がついた。

 与野党6党は昨年の通常国会で協議会を立ち上げ、日割り支給への変更や使途の限定・透明化、未使用分の国庫返納について「今国会中に結論を得る」と合意していた。

 当面の対応として、同年4月に在職日数に応じた日割り支給とする法改正を実現させたものの、使途公開や残金返納は問題提起から1年半余りたっても手付かずのままだ。

 一方、法改正で旧文通費の名称を変更し、使途の限定どころか、逆に調査や研究、広報など幅広く支出できるようにした。不透明な支出の追認であり、議員にとって使い勝手を良くしたのはお手盛りと言うほかない。

 議会制民主主義を維持するコストの原資は税金である。後ろめたい支出でないなら公開をためらう理由はない。余れば返納するのが当然であろう。

 民間企業なら領収書を添付した厳密な経費精算は常識であり、議論の余地もない。

 今国会は、防衛力強化や子ども政策の拡充に向け、予算「倍増」が主要な論点となっている。国民には新たな負担を強いようとしているのに、議員からは「政治とカネ」の透明化などへの真剣さがうかがえない。

 まずは政治家自らの特権にメスを入れるべきである。少なくとも、いつまでにどう見直すのか、会期末までに道筋を示さねば国民は納得しない。

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