お裁判所

 ある言葉に接頭語「お」を付けると、意味がまるで変わることがある。すし店では「にぎり」、お弁当に入れるのは「おにぎり」で、意味も値段も違う▲「めでたい」と「おめでたい」、「しゃれ」と「おしゃれ」も多くは別の意味で使う。「役所仕事」は堅実な仕事ぶりを連想するが、「お役所仕事」となれば、形式や前例にこだわる印象に一変する▲「保存記録が膨らむのを防ぐように」という“お達し”に従ったらしい。全国の裁判所で重大な少年事件の記録が廃棄された問題で、最高裁は廃棄を促すような対応をしたことを認めた。「右へ倣え」のお役所仕事だろう▲県内では20年前と19年前に、小さな命が奪われる悲痛な事件があったが、家裁の管理職が「全国的に耳目を集めた事件ではない」として記録を廃棄したという。過小評価の度が過ぎる。所長にも判断を求めなかった▲記録は誰かの所有物ではないという当然の感覚が眠っていたらしい。最高裁は「永久保存の価値を適切に選別する」と対策を示した。大切なのは、記録とは後世に引き継ぐもので、裁判所はその守り主という当事者意識に違いない▲お役所仕事を嫌った元官房長官、後藤田正晴(ごとうだまさはる)氏が残した五訓の一つにある。〈自分の仕事でないと言うなかれ〉。“お裁判所”の参考にもなるだろう。(徹)

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