京都への修学旅行「市内」に集中 わずか2%「市外」への誘導、秘策は?

春の修学旅行シーズンが到来し、横断幕を掲げて出迎える京都の観光関係者。京都市外に足を伸ばす学生は少ない(9日、京都市下京区・JR京都駅)

 京都府は本年度、京都市内に集中する修学旅行生を市外に誘導する事業を本格化させる。京都市は年間約70万人が訪れる日本一の修学旅行先だが、府の試算では市外の府域を訪れる修学旅行生は2%以下にとどまり、格差が大きいのが実情だ。自然豊かな地域での農家民泊や平和学習など市内では得られない学びをアピールしていく。

 市によると、新型コロナウイルス禍前の2019年に市内を訪れた修学旅行生は約70万4千人。日本修学旅行協会(東京都)の調べでは、中学生の都道府県別の行き先ランキングで長年1位を誇る。一方、府が大手旅行会社に聞き取った調査では、京都市外の府域を訪れた修学旅行生は約1万4千人にとどまる。

 そこで府が打ち出したのが府域への誘導だ。コロナ禍で大きく減少した修学旅行が今年から本格的に再開し、さらに25年の大阪・関西万博を控え、「大阪を訪れる修学旅行生に京都に来てもらうチャンス」(府観光室)として、本年度当初予算に関連経費1650万円を計上した。

 主眼は、既に府域に点在する学習素材の活用だ。和束町などでは農家民泊や茶摘み体験を通じて生活文化に触れることができ、舞鶴市の舞鶴引揚記念館ではシベリア抑留や引き揚げの史実を通して平和の尊さを学習することも可能だ。他にも山陰海岸ジオパークや桂川での環境学習など「地域に根ざした学習コンテンツは豊富」(同)で、府は昨年5月、モデルコースを盛り込んだ冊子を作成した。今後はさらに学習コンテンツの掘り起こしのほか、旅行会社や教育関係者向けの視察旅行も開催する考えだ。

 課題は京都市外の宿泊施設の少なさだ。修学旅行生の受け入れには一般的に数百人が泊まれる部屋数や設備が必要だが、「京都市内と比べるとかなり少ない」(府観光室)のが現状だ。旅館業法に基づく施設数(22年度末時点)も京都市内の3444施設に対し、府内は909施設と少なく、府の担当者は「まずは日帰りでの来訪を呼びかけていきたい」と話す。

 観光関係者はどう受け止めているのか。和束町、笠置町、南山城村で修学旅行生に農村生活の体験を提供している和束町活性化センターの湊美香さん(40)は「2泊3日の修学旅行の行程のうち、1泊は京都市内、1泊は府域で泊まってもらえれば」と期待を寄せる一方で、「コロナ禍の3年間は協力農家を維持するので精いっぱいだった。府は受け入れ体制の支援にも力を入れてほしい」と注文する。

 府域へ誘導すると京都市を訪れる生徒を「奪う」ことにもなりかねないが、府の担当者は「市内に来ている修学旅行生に市外へ足を伸ばしてもらうのが目的。京都市とも連携して進めたい」と説明。市の担当者も「京都府内を訪れる修学旅行生を増やす余地はまだまだある」と意欲をみせており、今のところ府市が対立することはなさそうだ。

© 株式会社京都新聞社