社説:同性婚訴訟 違憲是正へ法制化急げ

 性的少数者の権利保護をなおざりにしている国に、対応を強く促す警鐘といえよう。

 同性同士の結婚を認めない現行の法制度は、憲法違反だとする判断を名古屋地裁が示した。同種訴訟で「違憲」判断は2件目だ。

 判決は、同性カップルを法律上の婚姻制度の利益から排除し、「関係を保護する枠組みすら与えないのは、国会の立法裁量を超える」と制度の不備を認めた。

 札幌地裁に続き、個人の性的指向による異なる取り扱いが、法の下の平等を定めた憲法14条違反としたのに加え、婚姻の自由を規定した24条のうち2項にも違反するという初めての判断だ。より踏み込み、誰にも平等に結婚の自由を認める画期的な判決といえる。

 注目すべきは、近年の家族観の多様化や、同性カップルを保護しようとする国内外の動きを判決理由で踏まえていることだ。

 共同通信の今春の世論調査で、同性婚を「認める方がよい」は7割を超えた。婚姻相当とする「パートナーシップ条例」制定は全国300自治体を超える。ただ、条例は相続などで婚姻に代わる法的効果がなく、地域差も大きい。

 他の同種訴訟で合憲と結論づけた判決でも、東京地裁は法制度の不備を「違憲状態」とし、大阪地裁は将来の違憲の可能性に言及した。国に是正を迫る司法のメッセージは明確であろう。

 だが、国による法的保護の議論は動かぬままだ。岸田文雄首相は今年2月、同性婚の法制化を巡り「社会が変わってしまう」と国会で答弁し、物議を醸した。首相側近や自民党議員による性的少数者への差別発言も繰り返された。

 懸案のLGBTへの理解増進法案では、一昨年に与野党の実務者で合意した「差別は許されない」を、与党は自民保守系に配慮して「不当な差別はあってはならない」と修正して提案。当事者らは後退だと批判を強めている。

 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)首脳声明は「全ての人々が性的指向に関係なく差別のない社会」を掲げた。日本以外のG7は差別禁止などの法令があり、パートナー制度を含め同性婚を導入している。多様性を重んじる国際潮流にいつまで背を向けるのか。

 名古屋地裁は、同性婚を認めても弊害は考えられず、伝統的な家族観との間でも「共存の道」を探れるはずだと指摘している。

 国は速やかに法制化の議論を本格化させ、国会も権利擁護へ真摯(しんし)に踏み出すべきだ。

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