あの「アクリル板」どうしますか 捨てるに捨てられず、飲食店が頭抱える理由とは

倉庫に保管されているアクリル製の仕切り板(大津市唐橋町・れすとらん松喜屋本店)

 新型コロナウイルス対策として店舗などに設置されていたアクリル板の行方に注目が集まっている。

 新型コロナの感染症法上の位置付けは今月8日から「5類」に移行した。これを機に、アクリル板を取り外す店舗やオフィスが増えている。同時に、滋賀県や京都府でも資源の有効活用を望む声が上がっている。

 しかし滋賀県内のリサイクル企業は「受け入れが難しい」と指摘する。背景には、無色透明な外見からは分からないアクリル特有の事情がある。

 アクリル板の活用に関しては、京都新聞社の双方向型報道「読者に応える」にも投稿が寄せられた。

 京都市東山区の祇園地域でバーを経営する女性(60)は、カウンターのアクリル板4枚を撤去したが、捨てずにいる。「処分するにも費用がかかる。再利用できる方法があれば知りたい」と悩みを漏らす。

 大津市の京阪唐橋前駅近く、近江牛のステーキやすき焼きが人気の「れすとらん松喜屋本店」。出入り口近くの倉庫に、アクリル製の仕切り板が並んでいる。5類移行に合わせ、1階のカウンターなどに設置していた約20枚を撤去し、保管している。

 マネジャーの山本誠さん(45)は「感染拡大が再び起こる可能性もあるので当面は保管する。完全に収束した状態に戻って不要になれば、リサイクルを考えたい」と話す。

 新型コロナ感染対策の一環で、爆発的に普及したアクリル製などの仕切り板。5類移行を機に取り外す店やオフィスが増えている。

 廃プラスチックの買い取りを行う合同会社「辻リプラ」(高島市)の辻和彦代表は「5月に入って飲食店などの相談を受けたメーカーからの問い合わせが複数寄せられている」と話す。

 ただ、アクリル板の再利用には一筋縄ではいかない事情がある。

 業界団体「日本プラスチック有効利用組合」(東京都)の副理事長で、プラスチック原料・再生加工販売の近江物産(栗東市)の芝原茂樹会長は「製造方法によっては、通常のやり方で資源リサイクルができないものもある」と指摘する。

 どういうことか。アクリル板にはペレット状のポリマーを原料とする「成形板」と、分子同士が結合していない液状のモノマーをガラス板の間に流し込んで作る「キャスト板」の2種類がある。

 200度程度の熱で溶ける成形板は、再び冷やして固める一般的な「マテリアルリサイクル」に適しているが、キャスト板は同じ温度で溶けない。リサイクルに不向きな上、2種類の製品が混在していた場合、材料が混ざり合い、品質への影響が懸念されるというのだ。

 芝原会長は「キャスト板は中国からの輸入品に多く見られ、感染ピーク時に相当数が国内に流入した。見た目で成形板と区別することは難しい」と話す。

 こうした問題を解決するため、いったん分子レベルに分解して回収する再利用法「ケミカルリサイクル」が注目されている。すでに大手化学メーカーが実証事業に着手し、住友化学(東京都)は愛媛県の工場で取り組みを始めている。ただ、事業化のめどは2025年内で、さらに「アクリル以外の材料が混ざっていると対応が難しい」(広報担当者)という課題は残る。

 再利用を進めるために何が必要なのか。芝原会長は「例えば製法を把握している販売元が回収するなど、混在を避ける仕組みがなければリサイクルは進まないのではないか」と訴える。「国策」として普及したアクリル板だけに、国や自治体を含めた取り組みが求められそうだ。

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