マイナ誤登録、なぜこんなに多い? 結局、目立つのは人のミス 別人情報ひも付け、兵庫県の事例から探る

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 マイナンバーカードを巡るトラブルが全国で相次いでいる。デジタル社会に欠かせないシステムとして国は推進の旗を振るが、懸念された情報漏れなどが立て続けに発覚し、信頼が揺らぐ。健康保険証と一体化した「マイナ保険証」に別人の情報がひも付けられたケースは2022年11月までに約7300件も発生している。なぜミスは起きるのか、兵庫県の事例から探った。

 「二つのエラーが重なった」。県幹部は会見で苦渋の表情を見せた。

 県職員が加入する「地方職員共済組合県支部」でも今年5月、マイナ保険証に別人の情報がひも付けられたケースが1件見つかった。

 県によると、法改正で昨年10月から、非正規職員も共済加入が可能になった。このため県支部は、同9月から新たに対象となった職員とその扶養家族の計約5900人分の登録を開始。担当者5人で作業に当たった。

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 登録作業は紙で提出された「組合員資格取得届」を基に、システム上に必要項目を入力する。その際に必要となるのが「マイナンバー」だ。共済加入者からマイナ保険証の取得申請があった場合に対応できるよう、あらかじめマイナンバーとそれぞれの個人情報をひも付けておかなければならない。政府は来年秋に健康保険証を廃止し、マイナ保険証に統一する方針も示している。

 加入者のマイナンバーは、関連のシステムを管理する「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」に照会をかけて確認する。照会には、①氏名②フリガナ③生年月日④性別⑤住所-の5項目が必要で、この5項目を入力すると、該当する個人のマイナンバーが確認できる。

 1回目のミスはここで起きた。担当者が登録対象者の生年月日を打ち間違えたのだ。仮にその対象者を「山田太郎さん(A)」とする。あくまで本記事のための例だが、正しい生年月日は2002年「10月13日」なのに、2002年「10月3日」と入力した-という具合だ。

 すると偶然にも、2002年10月3日生まれで同姓同名の「山田太郎さん(B)」が存在し、照会結果にはこちらの山田太郎さんが表示された。ただし、住所はAの山田太郎さんとは異なる。

 本来なら、ここでミスに気付かなければならない。県のルールでは、Aの山田さんとBの山田さんの情報は、複数の担当者で確認するよう定める。実際、今回も複数で確かめたというが、生年月日の誤りは見落とした。例で示したように、2人の生年月日が似通っていたからだ。

 では、住所の食い違いはなぜ見過ごされたのか。県の説明では「1人暮らしの学生さんのように、住民票と実際の住所が異なるケースは少なくない」ため、住所の不一致は「あり得ること」として素通りされたという。

 こうして二つ目のエラーが重なり、そのまま登録作業は完了。その結果、Bの山田さんのマイナンバーに、Aの山田さんの情報がひも付けられた。ミスはいずれも人為的なものだった、といえる。

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 問題が発覚したのは5月17日。Bの山田さんがカード取得者向けサイト「マイナポータル」を閲覧したのがきっかけだった。名前は同じだが、身に覚えのない受診歴などの医療情報、つまりAの山田さんの個人情報が表示された。

 Bの山田さんは自身が加入する健康保険組合に連絡。同組合から県の共済支部に問い合わせがあり、誤登録が判明した。県支部はすぐに情報を修正したが、誤登録した昨年10月19日以降、約7カ月間にわたってBの山田さんはAの山田さんの個人情報を閲覧できる状態だった。

 厚生労働省の集計によると、健保組合などによるこうしたひも付けミスは、2021年10月から22年11月の約1年間に7312件も確認されている。県支部のケースは一つの例にすぎず、原因はさまざまだが、厚労省は全国の保険者にデータにミスがないかどうかの確認を求めている。

 再発防止のため、県支部は、住民票と実際の住所が異なる場合は「組合員資格取得届」に両方の住所を記載してもらうよう様式を改めた。県幹部は「チェックを徹底するしかないが、手入力を極力省けるよう、システムを見直す必要もあるのではないか」とする。

 マイナンバーカードを巡っては、コンビニでの証明書誤交付や公金受取口座の誤登録、マイナポイントの別人への付与といったトラブルも起きている。

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