「せめて何があったかを知らなければ」 神戸・高2刺殺事件発生から12年、裁判を控え被害者の父語る

「裁判がどんな結果でも息子の無念を晴らせるわけではない」と思いを語る堤敏さん=神戸新聞社(撮影・鈴木雅之)

 神戸市北区の路上で2010年10月、高校2年の堤将太さん=当時(16)=が刺殺された事件で、殺人罪に問われた当時17歳の男(30)の裁判が7日に始まる。事件発生から約12年8カ月。ようやく裁判開始にたどり着いた。「将太が帰ってくるわけではない。でも、せめて何があったかを父として知らなければいけない」。父の敏さん(64)は生活の全てを費やし、裁判に向けた準備を進める。(篠原拓真、井上太郎)

■「将太の死が無駄になる」

 起訴状などによると、男は10年10月4日夜、神戸市北区筑紫が丘4の路上で、将太さんを折り畳み式ナイフ(刃渡り約8センチ)で突き刺すなどして殺害したとされる。

 将太さんは知人の女子生徒と歩道で話していたところを襲われ、刺した男は逃走。兵庫県警は約10年10カ月後の21年8月4日、愛知県豊山町に住む元少年の男を殺人容疑で逮捕した。捜査関係者によると、事件数日後には、家族と千葉県浦安市に移ったことが分かっている。

 なぜ、10年10カ月も逃げたのか。どういう経緯でこんな結果になったのか-。男は逮捕時に容疑を認めたというが、敏さんの胸の内には疑問が渦巻いたままだ。「公判でうちが何かを得るわけではない。でも、何があったか、なぜ逃げたか、全てを知ろうとしないと将太の死が無駄になる」

■遺族は「蚊帳の外」

 今年3月以降、事件に関する記録を閲覧するため、神戸市北区の自宅からたびたび神戸地検に赴いた。少しでも記録を書き写そうとペンを握った。同じような事件が起きないようにするためにも、詳細を知る必要があると考えている。

 裁判官、検察官、被告、被告側の弁護士が出席し、争点整理などを行う公判前整理手続きは昨年9月末に始まった。しかし、敏さんがそれを知ったのは今年2月だ。手続きは非公開で、詳細は遺族も分からない。裁判の開始時期も日程も、ほとんど知らない間に決まっていった。結果だけが遅れて伝えられ、遺族は「蚊帳の外」に置かれていると感じた。

■最低限の寝食を取るだけの生活

 裁判で読み上げる予定の意見陳述は先月に書き始めた。家ではパソコン、移動中はスマートフォンで、書いては消すことを繰り返す。夜中に思いつくとすぐにスマホに打ち込む。明け方まで寝付けず、午前7時には目が覚める。裁判に向けた動き以外は最低限の寝食を取るだけの生活になっている。「少しでも裁判につぎ込みたい、というよりも、頭から離れない」と打ち明ける。

 被害者遺族にとって、裁判は事件の真実を知るためのわずかな機会だ。敏さんは裁判日程を書き記した手帳を見ながら語る。「悔いの残らんよう、できることは全てしたい」

© 株式会社神戸新聞社