同性間の挙式を断る神社が多い中、兵庫県尼崎市内の神社で3日、ゲイカップルの神前結婚式があった。式を前に神社本庁(東京)は取材に応じ、「神道の考えには、同性婚を肯定するものも否定するものもない」とし、受け入れの可否については各神社に判断を委ねるとの姿勢を示した。
■はかま姿で指輪交換
式を挙げたのは、尼崎市に住む松浦慶太さん(37)と、桜井英哉さん(38)=仮名。はかま姿で指輪を交換し、共に「受け入れてくれた神社には感謝しかない」と笑顔で話した。ただ、式の数日前には神社側に「気持ち悪い」などと匿名の電話が寄せられたという。
複数の神道関係者によると、大半の神社は「男女の前提が崩れると本来の神事ではなくなる」「祝詞の内容には古事記の『国生み神話』が含まれる」など信仰上の理由で同性間の挙式を受け入れていない。
これに対し神社本庁は今回、「特に公式見解は出していない」とした上で、神道には同性婚の是非を示す教義や経典はないとし「受け入れるかどうか、新しい形式を作るかどうかは、それぞれの神社の判断になってくる」と述べた。
■「裏切られたような気持ち」
「こんなことが人生で起きるなんて、夢にも思っていなかった。本当に、幸せです」
神社での式を終え、会見を開いた松浦さんと桜井さんは、ほっとした表情でお互いを見やった。
2人は2020年、尼崎市の「パートナーシップ宣誓制度」で婚姻に準じた関係と公認された。しかし2年後の22年6月、神社本庁を母体とする政治団体・神道政治連盟(神政連)が差別的な文書を自民党員に配っていたことが明らかになる。
「同性愛は後天的な精神の障害、または依存症」。そう記された文書に、松浦さんは「身近な存在だと思っていた神社に裏切られたような気持ち」がこみ上げた。問題提起の思いを込めて挙式できる神社を探した。
何度も断られた中で唯一、受け入れてくれたのが今回の神社だった。
■初めて見る姿に「きゅんきゅんした」
前日の荒天から一転、2人を祝福するように空は晴れ上がった。式は滞りなく進み、参列者らから「立ち会えてよかった」「おめでとう」の声がかかった。
初めて目にする桜井さんのはかま姿に「きゅんきゅんした」と松浦さん。同性間の挙式を受け入れる神社はごく少数にとどまるという現状には「カップルの前向きな人生をぜひ応援してほしい」と願いを語った。
中学生のときにゲイだと自覚した松浦さんは式の最後、あの頃の自分に向けてこんなメッセージを読み上げた。
「結婚ができない、家族を持つことができない、一生を孤独に過ごさなければならない。世界中の誰にも受け入れられない存在だと感じていました」
「将来のあなたは、大切なパートナーと結婚式を挙げ、家族となりました。家族や友人、地域の方にも認められ、神様から祝福されました」
「13歳の慶太君に、今日の姿を見せてあげたい」
■「前例がないから検討したことがない」
同性同士の神前結婚式について、今回の挙式を前に全国約10カ所の神社に取材した。大半の神社が「受け付けられない」と答え、その背景について「前例がないから検討したことがない」とする声が多かった。
多様な性への理解の広がりを意識しながら、「できるとも、できないとも公式には出していない」と明言を避けたり、「時代の流れもあり、神社界全体の課題ではある」ととらえたりする神社もあった。
一方、明治神宮(東京)は「受け入れの可否は神社本庁の見解を踏まえ、有識者も交えて検討していきたい」との意向を示していた。(大田将之、名倉あかり)