賑わうコンテナ…小さく始めた駅前開発 「動きがないなら自分でつくろう」、北陸新幹線上越妙高駅「フルサット」

【グラフィックレコード】駅前にコンテナ群
上越妙高駅(左奥)西口に位置するフルサット=5月11日、新潟県上越市

 目を引く真っ白なコンテナ群。新潟県南西部にある北陸新幹線上越妙高駅(上越市)西口ににぎわいを生みだしているのが、駅開業から1年3カ月後の2016年6月にオープンした民間の複合商業施設「フルサット」だ。コンテナが扇形に配置され、それぞれが屋根付き通路でつながっている。飲食店やIT企業のサテライトオフィスなどが入居し、地元の人をはじめ県外の観光客やビジネスマンが訪れている。

 今では西口にビジネスホテルや土産物店も並ぶが、駅開業当初はレンタカー店があったのみ。地権者や市は各種事業者の誘致に取り組んだものの、具体的な動きは見えなかった。フルサットを立ち上げた平原匡さん(45)は「地権者は一気に広い敷地を活用できる大きな商業施設や企業に来てほしいと思うもの」と話す。

 平原さんは、建築や観光に携わった経験を生かし、まちづくりに関わりたいと駅開業前にUターン。開業が迫っても空き地が広がる光景を目の当たりにし「動きがないなら自分でつくろう」と思い立った。人口減少や高齢化を踏まえると「駅前に大きな建物を造ることは必ずしも地域課題の解決策にはならない」。収益や集客力を維持するため目指したのは「身の丈に合った小さくても成長できるまち」だ。

 ■  ■  ■

 フルサットの開業資金は当時行政の補助メニューがなく、金融機関から約7千万円を借り入れた。資金繰りは苦しかったが、平原さんには民間主導だからこそ「事業が磨かれ、組織が鍛えられる」との思いがあった。

 比較的増設が簡単なコンテナを使い、時代や環境の変化に柔軟に対応できる手法を模索した。運営の省力化も進め、施設管理は基本的に仕事のパートナーでもある妻と2人で行っている。補助金頼みにならない態勢づくりが施設を維持し、まちを強くすると信じている。

 コンテナは4.5~18坪。1~2人でも店舗を回せる手頃なスペースに魅力を感じ、初めて自分の店を構える店主も多い。平原さんは「自然とチャレンジしやすい雰囲気が生まれた。小規模だからこそ、自分たちも運営の一部を担う意識が生まれ、まちづくりを自分事だと認識してくれる」と手応えをつかんでいる。

 ■  ■  ■

 フルサットは、新たな挑戦をする人の受け皿となり、駅周辺にも動きが広がっている。東口近くで8月中の醸造開始を目指すクラフトビール醸造所「ガンギブリューイング」もその一つ。Uターンした綿貫卓人さん(34)と、Iターンの宮本正裕さん(36)が着々と準備中だ。

 物件を探す中で平原さんとつながり、経営に関する相談なども重ねた2人。「品質にこだわったビールを上越から発信したい」と綿貫さん。宮本さんは「新幹線沿線の醸造所と協力してイベントをするなど、地の利を生かし地域を盛り上げたい」と意気込む。

 オープン時の構想にあった地域資源を見せる「ショールーム」機能に加え、人材を育てる場としても成長を続けるフルサット。平原さんは「若い人の挑戦を手助けする環境を整え、参画する事業者を増やしていきたい」。

20基組み合わせた複合商業施設

 フルサットは、株式会社「北信越地域資源研究所」が手がける。地元の地主から借りた約900坪の土地に、大小二つのコンテナ計20基を組み合わせた11の建物が並ぶ。居酒屋やラーメン店、カフェなど7店舗4オフィスがある。

 店舗をつなぐ通路屋根は古くから地域に伝わる、冬季の通路を確保するために家屋の一部や庇(ひさし)を道路側に延長する「雁木(がんぎ)」をイメージして造られた。

 コンテナは建築確認申請に対応した特注品で、床面積約9坪の40フィート(長さ約12メートル、幅約2.4メートル、高さ約2.9メートル)と、長さ、面積が半分になる20フィートの2種類。韓国・釜山の工場で生産し、船便で近くの直江津港に運び込まれたものを設置。内装などは現場で仕上げている。

 ×  ×  ×

 2024年春の北陸新幹線福井県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」は第3章に入ります。テーマは「新幹線が来たまち」。福井県外の駅周辺のまちづくりなどをリポートします。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

© 株式会社福井新聞社