繰り返す万引「厳刑より治療」 金沢地裁、法定刑下回る判決次々

  ●90年前制定の常習累犯窃盗罪、窃盗症想定されず

 万引を繰り返し常習累犯窃盗罪に問われた被告に対し、法定刑の下限(懲役3年)を下回る判決が3月以降、金沢地裁で3件相次いだ。弁護側は窃盗症(クレプトマニア)や知的障害の影響を主張し、裁判官が「治療や社会での更生を優先すべきで、厳刑は適さない」と判断した。90年以上前に連続強盗に対処するため制定された同罪は万引常習者を想定しておらず、現代の犯罪事情との不整合性が浮かび上がった。

 3月23日の判決公判で、白井知志裁判官は「窃盗症の強い影響によりストレス解消の手段として衝動的に万引を行ったものと考えられる」と指摘した上で、「窃盗依存が生じた要因は、万引を繰り返してきた被告人の責めによるところが大きい」と断じた。

 罪に問われたのは白山市の無職女(46)。懲役3年6月の求刑に対し、判決は懲役2年の実刑だった。

 白井裁判官が最後に「諦めずに治療してほしいと思っています」と語りかけると、被告は決意を込めたように「はい」と応じた。

 被告は大学卒業後から万引を繰り返し、過去に3回服役した。今回はスーパーで食品を盗んで逮捕され、病院に措置入院となった。退院後も万引を繰り返し、起訴後の保釈中にも2度万引で捕まり、起訴状には6件の万引が並んだ。

 「やめたいのに、やめられない。どんなに強い覚悟を持ってしてもやってしまう」。被告人質問では、万引の衝動を抑えられない恐怖を語った。解離性健忘を起こし、犯行時の記憶を失っていることもあった。

 常習累犯窃盗罪は10年以内に窃盗罪で懲役6月以上の刑を3回以上受けた人がさらに窃盗をすると適用される。法定刑は3年以上20年以下の懲役となる。

 被告の弁護人を務めた山本啓二弁護士(当時金沢弁護士会所属)は「精神医学的治療から被告を遠ざけてしまうことは無意味で無益だ」として、裁判では法定刑を2分の1にできる「酌量減軽」を適用し最下限の懲役1年6月とすべきだと主張した。

  ●最下限の判決も

 商業施設で食材を万引したとして起訴された金沢市の無職女(73)は3月9日、最下限の懲役1年6月(求刑懲役3年)の判決が言い渡された。

 弁護側は「窃盗症によって心神耗弱の状態だった」と責任能力の程度を争った。白井裁判官は手口が巧妙である点から責任能力は認めた一方、被害額の少なさや被告の困窮状態に言及し、酌量減軽した。

 コンビニで菓子を万引したとして起訴された金沢市の軽作業員の男(40)には4月20日、懲役1年8月(求刑懲役3年)の判決が宣告された。野村充裁判官は「軽度知的障害の影響で衝動性があることがうかがえる」と指摘した。

 全国的にも裁判で、窃盗症の影響が主張される常習累犯窃盗事件は多く、被告に有利な事情として認定されるケースが相次いでいる。

 常習累犯窃盗罪は1930(昭和5)年、当時頻発していた連続強盗に対処するために制定された。山本氏は、当時は窃盗症などの万引常習者を想定していなかったとして「90年前の法律が現代社会の実態とそぐわず、時代に合わせた対応が必要ではないか」と指摘した。

 ★窃盗症(クレプトマニア) 依存症の一つで、盗みをやめられない心の病気。普通の窃盗は役に立つ品や金銭的価値があるものを盗むのに対し、自分が使う意思も、価値もないのに盗む衝動に抵抗できなくなる特徴がある。摂食障害と合併して起こることがあるほか、女性の患者が多いとの見方もある。

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