25メートル前で「電車!」叫ぶ 富山地鉄・作業員死亡事故

作業員1人が電車にはねられた事故現場。複数の規定違反が確認された=4月11日、富山市水橋常願寺

  ●安全対策求め改善指示

 4月11日に富山市水橋常願寺の富山地方鉄道本線で、19歳の男性作業員が線路の補修作業中にはねられた死亡事故で、現場作業員ら6人は、電車が25メートル前に迫るまで接近に気付かず、1人が「電車!」と叫んでから逃げていたことが、7日分かった。同社によると、適切な退避合図がないなど複数の規定違反があり、1人が逃げる途中で車体と接触した。北陸信越運輸局は同日、安全管理見直しを求める「改善指示」を行った。

  ●規定違反複数 見張り員が作業、看板なし

 富山地鉄によると、事故当時、作業員4人と、電車の接近を警戒する見張り員2人がレールの修正作業を行っていた。見張り員1人が大声で「電車」と叫んだ時点で約25メートルまで迫っており、6人は直後に線路横に逃げ始めたが、1人は逃げ切れなかった。

 同社担当者は「電車の衝突までは一瞬で、それぞれが逃げるのに精いっぱいで、はねられた社員を助ける時間はなかったと思う。大変申し訳ない」と述べた。

 一方、電車の運転士は現場の約100メートル手前で作業に気付き、時速78キロからブレーキを掛けて減速していたが、接触を避けられなかった。

  ●退避合図行われず

 富山地鉄の規定では、電車が作業地点に到達する3分前、見張り員が合図を出し、2分前に退避を完了する。しかし、事故当時は退避しておらず「実質的に退避案内がなかった」(同社担当者)という。

 見張り員2人は電車の監視に専念することが求められるが、2人はレールの修正作業を行っていた。「少しでも手助けをしたい」などと話しており、北陸信越運輸局は「軽作業を行うことが常態化していた」と指摘した。

 同運輸局は7日公表した保安監査結果で、このほかにも複数の規定違反があったと指摘した。作業地点から前後200メートル離れた位置に、運転士が見やすいよう「作業中」と書いた看板を掲げる必要があるが、設置していなかった。見通しが悪い地点で配置が必要な「中継見張り員」も置かず、電車乗務員に線路内作業を周知する規定も守られていなかった。

 同運輸局によると、事故原因に関しては、国の運輸安全委員会が調査を進めている。事故から1年後に報告が行われる予定。

  ●北陸信越運輸局「教育を」

 北陸信越運輸局は改善指示で、富山地鉄の安全管理体制を見直し、7月7日までに措置を報告するよう求めた。関係規定が形骸化していないか実態を検証し、事故防止要領を見直すことや、安全意識を徹底し、教育を行うよう要請した。

 一方、富山地鉄は7日、運輸局の指摘事項を改善するとして再発防止策を発表した。見張り員が監視に専念し、今回携行していなかった合図旗を携帯させるとした。運転士向けの作業中看板設置や「中継見張り員」配置も徹底するとした。

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