海外でも人気、折り畳み式の「富士山ナイフ」で資金調達 播州刃物の後継者育てる兵庫・小野の工房、代表が描く夢

改良型の富士山ナイフを手にする(左から)山口小春さん、小林新也さん、宮之原康詞さん=小野市西本町

 播州刃物の後継者を育てているデザイン会社「シーラカンス食堂」(兵庫県小野市西本町)が、主力商品で折り畳み式の「富士山ナイフ」の改良型を作り、販売を始めた。代表社員の小林新也さん(35)は、職人の高齢化で廃業が相次ぐ地場産業の現状に危機感を抱いており、売り上げを職人の養成に活用する。クラウドファンディングで資金を募っている。(坂本 勝)

 小林さんは実家が表具店で、小野高校を卒業後、大阪芸術大学でデザインを学んだ。帰郷して同社を設立し、デザイナーとして播州そろばんや播州刃物の価値向上にも取り組む。

 地場産業に深く関わるうち、刃物職人の高齢化と後継者難に突き当たった。職人が弟子を取り、一人前に育てるには大きな責任が伴う。一方、技術を学びたい若者が現れても受け入れ先が見つからない。

 課題を解決しようと、小林さんは実家の一部を改修し、職人の育成工房「ワークショップ」を造った。ベルトハンマーやグラインダーなどの大型工作機械を引退した職人から安く譲り受け、工場の閉鎖や廃業の情報を得ると、機械や道具を引き取りに行く。若者は工房で刃物作りに専念し、学びたいことがあれば、刃物職人の元に行って尋ねる-そんなシステムをつくり上げた。

 富士山ナイフは2018年に三寿ゞ(みすず)刃物製作所(三木市本町2)と共同製作した。握り手に富士山や三保松原の松をかたどり、瓶詰めの飲料が多い欧米を意識して栓抜きを付けた。日本らしいデザインが海外で高く評価され、インターネットを通じて市場を開拓し、5千本以上を販売した。

 改良型は従来の安来鋼の白鋼に代わり、高級な青鋼を使った。富士山ナイフの美しさや機能性はそのまま、使い心地を向上させ、切れ味の持続を実現。デザインも刃元に青紙と刻印し、包装袋は黒色にして高級感を出した。

 製造した宮之原康詞(こうじ)さん(43)=加古川市=は工房で働いて5年目。ナイフより複雑な生け花ばさみも作るようになった。刃物作りを「奥が深く、やりがいがある」と自信を深める。東京都出身で4年目の山口小春さん(26)=小野市=は「鍛冶屋になって道具を作るのが夢だった。職人が減る中、次世代につなぐことができれば」と意気込む。

 資金協力はサイト「マクアケ」で6月29日まで。改良型の富士山ナイフは6600円。シーラカンス食堂TEL0794.63.2265

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