「研究者になりたい」古希を過ぎて大学院に入学、断念した20代の夢再び 会社社長が元素分析を追究

森和明さん

■会社社長 森和明さん(72)

 「研究者になりたい」。20代の頃から思い続けてきた夢を、72歳にしてかなえた。

 今年4月、大阪公立大工学研究科博士後期課程に入学。物質科学生命系専攻で、蛍光エックス線を使った元素分析を追究する。

 1973年に大阪電気通信大工学部を卒業し、大阪市立大(現大阪公立大)大学院の研究生として、内燃機関のコンピューター制御について研究。引き続き大学院に残りたかったが、家庭の経済事情から断念し、74年に富士通にシステムエンジニアとして就職した。

 79年に独立し、故郷の兵庫県加古川市でソフト開発・メンテナンスの「富士コンピュータ販売」(現富士コンピュータ)を起業。社員は父と2人だけで、実家の一室に机と黒電話を置いてスタートした。

 ワープロも普及していない時代。企業向けに販売管理などができるシステムを売り込み、業績を伸ばした。

 現在は、通信制の相生学院高校(相生市)やICT専門学校(明石市)など7社・団体のグループで、従業員約200人を抱える。

 2019年、大阪公立大工学研究科のシステム開発の依頼を受けたことを機に、蛍光エックス線による分析法を共同研究するようになった。

 若き日の研究職へ思いがよみがえり、今年2月、同大の社会人特別選抜を受験。口述試験で、これまでの研究実績やこれからのテーマなどを発表し、合格通知が届いた。

 この分析法が実用化されれば、物質に含まれる元素を素早く分析でき、食材の安全性確認や絵画・文化財の鑑定などに応用できるという。

 現在は社業の傍ら、オンラインで大学院の教授らと打ち合わせし、週1回、大学に通う。「ずっと大学院に戻りたいと思っていた。若い学生と一緒に楽しく取り組めている。これからの人生は、できるだけ会社の経営者ではなく、研究者として生きたい」と熱っぽく語った。(斉藤正志)

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