突然の倦怠感などで日常変化 男子中学生、コロナ後遺症とは断定されず 尽きぬ母親の心配

昨年6月に息子の体調が急変して以降、母親は体調などを細かく記録している

 新型コロナウイルスに感染後、疲労感・倦怠(けんたい)感、記憶障害、集中力低下、頭痛、味覚障害などに苦しむ人がいる。長崎市内の家族を取材した。
 「息子さん、急に具合が悪くなって」。中学校から連絡を受けて医療従事者の女性が迎えに行くと、中2の長男は顔面蒼白(そうはく)でつらそうに座っていた。悪寒、頭痛などの症状があり、汗もかいていた。
 2022年春、息子は新型コロナに感染した。重い症状には至らず、自宅待機の期間が終わると元気に学校に通い始め、大好きな部活にも復帰した。母親は可能な限りの対策をして看病。家族に広がることもなく、安堵(あんど)していた。軽快してから1カ月後、思いもしない体調の急変だった。
 この日を境に、ひどい倦怠感や頭痛などで休んだり、早退したりする日が続いた。
 「体を動かそうと思っても動かない」「俺の体、言うことを聞いてくれない。何でこんなことに」
 苦しむ姿に家族は胸を痛めた。
 母親は毎朝6時半ごろから時間をかけて起こそうとしたが、長男はつらそうだった。7時半になるのを待って「きょうも休みます」と学校に連絡する日が増えた。「これからどうなってしまうのかな」。人一倍元気で楽しそうに通学していた息子の日常が、ある日突然、変わってしまった。不安で押しつぶされそうになり、声を殺し、台所で何度も泣いた。

 2022年6月に中学2年の息子が急に体調を崩して以降、いろんな検査を受けた。なかなか原因が分からず、本人や家族の不安は増した。そんなとき、知人から起立性調節障害のことを聞いた。息子の症状と似ていたため、インターネットで調べた。専門家たちの報告に新型コロナ感染後に同障害の報告が増えているという記述があった。母親は「これだ」と思った。
 かかりつけ医を再受診。同障害の一つに分類されている体位性頻脈症候群に診断が確定した。家族は「コロナの後遺症」と確信していた。だが、医師からは「感染がきっかけで間違いないと思うが、断定まではできない」と伝えられた。総合病院で専門医に診てもらっても同じ反応だった。
 同障害は倦怠(けんたい)感などで朝起きられないことがある一方、夕方ごろまでに症状が和らぐ場合もある。次第に放課後の部活や授業に出られる日も増えた。3年生になった今春以降、3日続けて朝から登校できたこともあった。
 息子は「もう治った」と気丈に振る舞うが、母親は「頑張った後、とても疲れてしまい、以前に比べ回復が遅い」と感じる。実際、欠席する日もまだ多く、症状に注意を払いながら見守っている。受験生でもあり、心配は尽きない。

 新型コロナは5月8日から感染症法上の5類に引き下げられ、あらゆる制限がなくなった。だが、母親は感染対策は「まだ必要だと思う」と話す。感染して軽症でも後遺症が出れば本人はもちろん、家族も苦しむ。母親は「学校生活や進学、就職、仕事にも多大な影響を与え、人生が左右されかねない。わが家の場合、母(息子の祖母)が支えてくれたので仕事を辞めずに済んだが、看病で仕事を続けられなくなる人もいると思う」と訴える。
 一方で周囲のサポートには助けられた。「学校の先生方は親身になってくださっている。部活に行けないこともあったが、指導者や部員、保護者が体調のことを理解してくれた。精神的に救われた」と感謝する。

◎まずは「かかりつけ医」に 不明な点多く苦しむ要因

 新型コロナウイルス感染症の罹患(りかん)後症状(後遺症)は、治療や療養が終了した後に感染性は消失したにもかかわらず、ほかに明らかな原因がなく、倦怠(けんたい)感や息切れ、思考力や記憶への影響などの症状があるものとされている。世界的に研究が進められているが、不明な点も多く、患者や家族が苦しむ要因にもなっている。
 県外には「コロナ後遺症外来」を設ける医療機関もあるが、県感染症対策室によると、県内にはなく、後遺症の疑いがある場合は、かかりつけ医や最寄りの医療機関の受診を勧めている。担当者は「治療や経過観察が長期に及ぶこともあるため、通院しやすい方が患者にはメリットがある」と話す。
 診療所などで対応が困難な場合は地域の総合病院で対応。それでも対応が難しい場合は高次医療機関の専門診療科が応じる仕組み。県は県医師会などと協力し、後遺症の対応について医療従事者に知ってもらう研修なども開いている。担当者は「体制は整えており、理解を促すための取り組みを進めている」と話す。
 県はホームページに、後遺症診療に対応できる医療機関を「呼吸器」「消化器、嗅覚・味覚障害」「疲労感・倦怠感」など七つの症状別に紹介。現在計127機関があり、「受診先に迷った場合に活用してほしい」としている。


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