当たり前のように展示販売される幼いペット、販売禁止への道は険しく 法改正の現場に携わって【杉本彩のEva通信】

動物愛護管理法の改正へ向けた超党派の動物愛護議連の会合
動物愛護議連の会合で意見を交わす杉本彩さん

2014年に設立した当協会Evaは、動物の命の尊厳を守るため、動物福祉の向上を目指す活動をしているが、そのために重要なのは動物愛護管理法の改正である。この法律は閣法ではなく、議員立法によって5年に一度改正されてきた。当協会は、超党派の国会議員で発足した動物愛護議連のアドバイザリーとして、2019年の法改正に携わった。その経験から学んだことは実に多い。動物虐待・殺傷罪の厳罰化が実現した時は、徹底的なロビー活動と署名運動が大きな後押しとなった。「必ず変えてみせる!」そんな強い思いで、諦めずに声を上げれば、民意で法律を変えることができるのだと、身をもって学んだ。

このように嬉しい学びがある一方、社会の不条理な現実について、思い知らされることも多かった。たとえばこれだ。誰かの利権を生み出すことに繋がる法改正は、充分な議論を重ねなくても、あっという間に実現する。しかし、業界が今までどおり利益を得られなくなる規制については、それがどんなに正しいことでも、法改正が非常に困難であるということだ。それはペット事業に限らずだが、何故なら、さまざまな利益団体が存在し、自分たちの利益を守るため、組織内で議員を擁し、議員立法の抵抗力となって法改正や規制強化を阻むからだ。

たとえば8週齢規制。生後8週以下の仔犬・仔猫を販売してはいけないというものだ。以前もコラムで取り上げているが、改めて触れておきたい。この規制は、犬猫の心身の健康と社会化に必要だ。しかし、日本犬だけ、正当な理由無しに規制から除外された。ちなみに、日本犬保存会も秋田犬保存会も改正時の会長は国会議員だ。この2団体が主張する日本犬だけが、これまでと変わりなく生後7週齢を超えれば販売してもよいのだ。議員が業界の利益を守った典型的な事例だ。

超党派議連でまとめ上げた法案は、全会一致でなければ可決しない。そのため、議連内部で調整を図ってくれる議員、または、外からでも影響を与えることができる大物議員の存在が必要だと学んだ。

そしてもう一つ。犬猫の販売におけるマイクロチップの義務化。前回の法改正の数ある議題の中で、けして優先順位の高いものではなかった。それどころか、義務化については慎重に検討すべきとの声があり、当協会も積極的に推進するものではなかった。しかし、あっという間に知らないうちに話は進行し、さまざまな課題を残したまま可決。そのため法律の施行後、マイクロチップに関わる各所に問題が発生している。

このように同じ政党の中にも、動物愛護団体の要望を受けて働いてくれる議員もいれば、業界側に付き抵抗力となって働く議員もいる。そのため非常にハードルの高い改正ではあるが、当協会Evaは、次期法改正においても緊急一時保護制度や動物取扱業の許可制、移動販売や野生動物の取扱いの禁止など、あげたらキリがないが全力で突き進んでいくつもりだ。

また、近い将来、「幼齢動物の販売禁止」も目指したい。

しかし、どれだけ動物の幸せや問題解決に必要なことでも、業界の利益に配慮され高い壁が立ちはだかる。「幼齢動物の販売禁止」については、現状当たり前のように動物が展示販売されているので、まだまだこれが異常なことだと気づいておられない人も多いだろう。しかし、事業者による後を絶たない虐待を知れば、もうこれしか手立てはないと理解していただけるはず。事業者の劣悪飼育と暴力や殺傷について、事件化したものはほんの一部に過ぎない。何故なら、ペット事業者を指導しなければならない行政は、虐待の事実を知りながら放置していると言って過言ではないからだ。

たとえ罪に問われ廃業した事業者でも、一般飼養者として仔犬・仔猫を繁殖させ、知り合いのブリーダーに代わりにペットオークションに出品してもらい販売につなげ、闇で商売を続けているのだ。行政はそれを知りながら、「登録事業者ではないから指導できない」と、違法行為を見て見ぬふり。虐待は終わらない。どれだけ規制を強化しようと、現行法は逃げ道だらけだ。マンパワーとやる気と責任感が不足している行政の限界を感じる。だが、幼齢動物がショップに並ばなければ、飼育放棄の原因となる安易な衝動買いもなくなる。ペットショップは衝動買いを促すための業態なので、常にショーケースに仔犬や仔猫を展示したいわけだ。しかし、幼齢動物の販売ができなくなれば、利益を求め次々と大量に生ませる必要はなくなる。なので非道な乱繁殖は防げる。松本市で起きた事件のように、医療費をケチって獣医師資格のない者が無麻酔で帝王切開し、犬を傷つけ、苦痛と恐怖の末に命を奪ってしまうこともない。大量繁殖に伴う世話の行き届かない劣悪飼育もなくなるし、売れ残った犬猫を過酷な環境で全国連れまわして売り捌く移動販売だってなくなる。

どれだけ規制を設けてルール化しても、すべてに抜け道が存在し、それをチェックし指導する行政が機能していない。だから誰の目にも白か黒がわかりやすく判断できる、はっきり「アウト」と言える法改正が必要なのだ。そうすれば、ペット事業における動物福祉は大きく前進し状況は激変するだろう。

もちろん、法改正には必ず副作用も伴う。たとえば、それでも幼齢の仔犬仔猫が欲しいという消費者に向けて、モグリで商売をやる者が現れるかもしれない。保護動物だと言って、繁殖させた幼齢動物を「譲渡」という名で商売にするかもしれない。それでも、現状の抜け穴だらけの状態よりも、はるかに良くなる。違法と判断しやすくなり、検挙に繋がるからだ。幼齢動物の販売は、流通過程において動物福祉の観点から問題だとその声が高まれば、業界から支援を受け擁護している議員の勢いも、減退するかもしれない。そうでないと、これは実現しないのだ。とにかくもうこれ以上、モノ以下の扱いを受け、苦しみ続けるもの言えぬ動物の、悲惨な姿は見たくない。この非道な虐待を、必ず終わらせなければならないのだ。(Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。

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