社説:子どもの自殺防止 社会全体でさらなる支援を

 子どものほんのわずかなSOSにも周りが手を差しのべられるよう、社会全体での見守りが必要だ。

 自ら命を絶つ子どもが増えている。厚生労働省や警察庁のまとめによると、2022年は514人と、統計を取り始めた1980年以降で最多となった。

 深刻な状況に、政府は対策の緊急強化プランをまとめた。学校で子どもに1台ずつ配られたタブレット端末の活用を柱に掲げた。子どもが体調や精神状態などの質問項目に答えることで、自殺リスクを早期に把握し、防止につなげる。全国の学校で実施を目指すという。

 児童精神科医や弁護士らでつくる「若者の自殺危機対応チーム」も都道府県などに設置し、市区町村の取り組みをサポートする。24時間対応で相談を受ける「孤独・孤立相談ダイヤル」(#9999)の試行事業実施なども明記した。

 京都市も、大人を含め3年連続の自殺者増加を受け、子ども向けの相談や女性の孤立、孤独対策の拡充に取り組んでいる。

 自殺対策に万能薬はないが、手探りであっても、さまざまな手だてを講じて食い止めて、セーフティーネットを紡いでいくしかない。

 心の悩みや生きづらさがあっても、子どもは我慢をしがちで、SOSの声を上げにくい。周囲の大人たちが早期にその端緒に気づき、適切に対応することが何よりも重要だ。

 2022年の自殺者数の内訳は小学生が17人、中学生143人、高校生354人だった。原因は「学校問題」が最多となり、「学業不振」や「進路の悩み」などが含まれた。ほかに「健康問題」や「家庭問題」も目立った。

 特に新型コロナウイルス感染拡大が始まった20年以降で、自殺者数は高い水準が続いている。行動制限により、心のよりどころにしていた居場所や、信頼できる人と接する機会を失ったことがストレス増の一因と指摘されている。

 コロナ禍では、子どもを支える地域活動も休止に追い込まれた。子どもにとっての「第三の場所」への支援が欠かせない。電話やメールで対応する相談員も不足している。研修を経た質の高い人材の確保が急がれる。

 4月に発足したこども家庭庁では、子どもの自殺対策に取り組む部署を設置した。いじめや家庭内の虐待、貧困、SNSトラブルなど、自殺の背景は見えにくく複雑化している。各省庁や自治体、民間団体などをつなぐ役割が求められよう。

 06年に制定された自殺対策基本法では、「自殺は個人的な問題ではなく社会の問題」と明示された。その考えは十分に浸透しているだろうか。

 子どもたちが安心して過ごせる社会づくりは、大人の責務にほかならない。

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