【インタビュー】U-22日本代表屈指の「現代型CB」!ジュビロ磐田、鈴木海音が語った“現在地”

パリ五輪出場を目指すU-22日本代表DF鈴木海音。

2019年にはU-17W杯に出場し、センターバック(CB)として全4試合にフル出場。U-17日本代表の守備の要として3試合連続無失点を達成するなど、ベスト16進出に貢献した。

15歳の頃から年代別の日本代表として活躍してきた彼は昨季、出場機会を求めて栃木SCに育成型期限付き移籍。実戦経験と確かな手応えを携えて今季、ジュビロ磐田に復帰している。

小学4年時からスクールに通い、ジュニアユース時代から在籍する「心のクラブ」で、日増しに存在感を高める20歳の青年に話を訊いた。(取材・文/新垣 博之、取材日:2023年5月31日)

低迷するチームを救う現代型CB

昨季J1で18チーム中の最下位に終わり、J2降格を喫したジュビロ磐田。加えて、2021年に加入した外国人選手の契約を巡り、FIFA(国際サッカー連盟)から2023年度1年間の補強禁止処分を科せられている。

その影響もあり、今季のチームは開幕から5試合で僅か1勝の15位。第7節には早くも3敗目を喫し、J2でも低迷を続けていた。

「正直、J1クラブからのオファーも複数ありましたし、海外も視野に入れて考えた時期もありました。でも、ジュビロがJ2に降格し、補強もできない。この厳しい状況の中で、藤田(俊哉)さん(スポーツダイレクター)から『戻って来て欲しい』と強く求めていただきました。お話を重ねる中で、『やっぱり、ジュビロで十分な活躍をしてから海外へ行きたい』という結論に達したことで、ジュビロ復帰という決断をしました」

第11節の金沢戦では憧れのMF山田大記からのアシストでJリーグ初ゴールを挙げた。 (写真提供:ジュビロ磐田)

大きな覚悟をもってジュビロへ復帰した鈴木海音。U-22日本代表でも主軸を担う彼は、積極果敢に前に出てボールを奪うインターセプトと、攻撃の起点となるビルドアップを武器としている。

攻守で機能する現代型CBが第8節の水戸ホーリーホック戦から先発に定着すると、チームの1試合平均得点が「1.33→1.77」へ上がった一方で平均失点は「1.33→1.08」へと減り、勝点も「1.17→1.77」と大幅に上昇。順位もJ1昇格プレーオフ圏内の6位に浮上している。(下記参照)

『ジュビロ磐田 DF鈴木海音の出場で大きく変化するチーム成績』(作成:筆者)

待っていた「試練」…メンバー外、OG、ダービー2失点

昨季、栃木でプレーしていた鈴木海音は[3-4-2-1]の右CBに定着し、J2リーグ34試合に出場。チームは17位に終わったものの、失点はリーグで3番目に少ない40失点。堅守確立に貢献していた。

「栃木ではプロになって初めて1年を通して試合に出続けるという経験ができました。90分を通した試合運びを考える中で、インターセプトを狙って前に潰しに行ける場面や範囲、ビルドアップの部分でも通用するところと、しないところが明白になりました。

3バックの右CBは前へ上がって行ける回数も多いので、積極的なトライができるという部分を楽しんでやれていました。自分たちがボールを保持できる時間(昨季の栃木のボール支配率はリーグ20位の42.4%)はそう長くはなかったのですが、だからこそボールを奪われないためにどうするのか。FWへの縦パスを入れる角度を作るためには、ポジショニングや体の向きから考えていかないといけない。試合の中で出来ることを整理し、出来ないことを修正していく。そんな過程を経て、すごく成長できた1年になったと思います」

しかし、ジュビロへ復帰した彼を待っていたのは、「試練」だった。

今季の目標に「全試合出場」を掲げたものの、開幕戦から出番なし。第2節からはメンバー外も経験した。ベンチ入りした開幕戦では5人の選手交代が終了して以降も、「ルール上は脳震盪による交代の可能性もある。あのまま突っ立ってるだけでは悔しいだけ」と、ウォーミングアップを続ける姿を見せるなど、いきなり我慢の時を迎えた。

「ベンチもメンバー外も一緒」と考えていた彼が、今季初めて公式戦のピッチに立ったのは、YBCルヴァンカップのグループA第1節・横浜F・マリノス戦。昨季のJ1王者は主力級のメンバーで挑んで来た。現在J1得点ランクの首位に立つFWアンデルソン・ロペスらと対峙しながら、「J1王者を相手にも自分の持ち味が出せた」試合は、チームとしても攻守にアグレッシヴなサッカーを体現できていた。しかし結果は、自身のオウンゴールによる失点で0-1の惜敗を喫した。

今季J2初出場となった静岡ダービー。昨季のJ1得点王チアゴ・サンタナとも対峙。 (写真提供:ジュビロ磐田)

そして、横浜FM戦から10日後となる3月18日には、J2第5節・清水エスパルスとの「静岡ダービー」を迎えた。

「CBに欠場者(※前節にCB中川創が退場処分、開幕からレギュラーを担ったCB伊藤槙人も負傷欠場)が多く出たことで自分にチャンスが回って来ました。ダービーのためだけに1週間かなりの準備をしたのですが、その気合が空回りしてしまったところもありました。2度のリードを追い付かれたことも含め、個人的な内容にも悔しさの残る試合になりました」

「脅威を感じた」チアゴ・サンタナと柿谷曜一朗との対戦を経て

2-2の引き分けに終わったダービーの中でも、相手のブラジル人FWチアゴ・サンタナには2ゴールを許しただけでなく、個人としてマッチアップした局面で違いを見せつけられた。

「チアゴ・サンタナ選手は昨年のJ1得点王ですし、J2では経験できないレベルのFWだと思います。フィジカルコンタクトの場面でも勝てていないと感じましたし、試合中も何度も嫌な動きをしてくるなと思いました。ポストプレイをした直後の動き直しやゴール前へ入ってくる動きもマークに付きにくかったですね」

また、今季のJ2を戦う中で、彼がチアゴ・サンタナと共に「脅威を感じた選手」に名前を挙げたのが、徳島ヴォルティスの元日本代表FW柿谷曜一朗だった。

4月29日のJ2第12節、ジュビロはホームに開幕から11戦未勝利で最下位に沈んでいた徳島を迎えた。開始早々にセットプレーから先制を許したジュビロは前半20分、柿谷の個人技による追加点を献上。対応した鈴木海音は股抜きを喰らった。

「あれは股抜きが来るとは思っていなくて、柿谷選手のボールタッチが大きくなった時点で『奪える』感覚でいました。たぶん、柿谷選手も最初は狙ってなかったと思います。自分が喰い付いたことで、瞬時に選択肢を変えられたと思います」

“高い授業料”を払わされた格好だが、CBは経験こそが、地となり肉となるポジションだ。

これらの苦い経験を経て、次節の東京ヴェルディ戦からの4試合で3完封を含む3勝1分無敗。彼自身も若いチームメイトと共にさらに成長を遂げている。

「競り合い、特にセットプレーからの失点が多かったので、そこは徐々に修正できてきたと思います。それ以上に自分たちがボールを持つ時間が長いので、ビルドアップで起点となることが多い自分は、縦パスの意識やサイドチェンジをする感覚を強く持つようになって、精度も上がってきたと思います」

ビルドアップの極意、Jリーグ30周年MVP遠藤保仁の存在

ただ、徳島戦の決勝点(2-3の敗戦)は自分たちのビルドアップを徳島の連動したプレスでハメられ、高い戦術眼をもつ柿谷にボールを奪われて喫した失点だった。

「バックパスから始まって、ポジショニングも含めて後ろ向きの選択が続いたことで招いた失点だと捉えています。チーム全員がもっと速くポジションをとって、相手を見ながらボールを動かす、ということをもっとやっていかないといけません。あの失点はすごく痛かったですけど、すぐにチームの課題として共有できました。そういう意味では今後へ活かせる失点だったと思います」

自陣深くからボールを繋ぐビルドアップからの失点はU-22日本代表にとっても避けては通れない課題だが、そこは彼の強みでもある。球足の速い縦パスで攻撃の起点となり、ドリブルでの持ち運びは相手のプレッシャーラインを越えるだけでなく、フルスプリントで突破にかかる場面も多い。

DFながらドリブルでの持ち運びや鋭い縦パスも武器とする。写真は第13節の東京V戦(写真提供:ジュビロ磐田)

「自分のところから攻撃を始める、仕掛ける気持ちでいます。自分に強い矢印のプレスが来るということは、ピッチのどこかでチームメイトがフリーになっている証拠です。そこでビビッて蹴ってしまうと、チームとしても何も残りません。確かにリスクはありますが、怖さは感じません。前にスペースがあればドリブルでの持ち運びもします。フルスプリントでドリブルすると、どうしても視野が狭くなってしまうので、最近は少しゆっくり目で運んでいます。そこは反省気味ですね(笑)」

ジュビロには『Jリーグ30周年MVP』に輝いた元日本代表MF遠藤保仁が在籍。Jリーグと日本代表で共に最多出場記録をもつ43歳のレジェンドは、ボランチが本職。ビルドアップの引き出しも豊富だ。パリ五輪を目指す20歳のDFにとって、“ヤットさん”の存在とは?

「ボールタッチもキックも正確なのですが、それ以上に立ち位置やパスを出したあとの次の動きがとても速くて的確です。後ろから見ていても深く考えながらプレーされているのが分かります。ビルドアップをするうえではヤットさんにボールを預ける、あるいはヤットさんのポジショニングやマークの付かれ方を見て、自分が高い位置をとったりもします。ヤットさんをフリーにするためにも、自分たちのポジショニングやパススピードが重要になってきます。そういう部分はヤットさんと直接コミュニケーションを取りながら、勉強させてもらっています」

「幸せを感じられる」チームの顔に

「チームの顔になる」リーダーシップも魅力だ。写真は第16節の藤枝戦勝利後(写真提供:ジュビロ磐田)

今季のジュビロにはJリーグ60クラブ中2番目に多い14人の「ホームグロウン選手」(※12歳から21歳の間で、少なくとも3シーズン以上、自クラブに登録している選手)が登録されている。ルヴァン杯グループA第4節の横浜FM戦では登録メンバー18選手中の10名がアカデミー出身選手で占められた。これからのジュビロを構築していくうえで、ユース出身である鈴木海音の役割は大きい。

「自分も小学生の時にジュビロのスクールに通い始めて、U15、U18と昇格して、このクラブをずっと見て来ましたし、スタジアムにも足を運んで試合も観て来ました。小さい頃から、『このクラブでプロになりたい』と思ってやってきて、今自分はそのピッチに立っていることを幸せに感じてプレーできています。そう感じてくれる選手が多くなることで地元が盛り上がり、地域の人たちからの応援も強くなります。そうなるためにも、自分がこのチームを引っ張って、もっと活躍して、チームの顔になっていかなければいけないと思っています。まずは1年でのJ1昇格、そこを目指して頑張ります!」

【日本代表】パリ五輪で結果を残し、目標はW杯優勝

今季の鈴木海音は第8節から先発に定着。それまでのリーグ戦の出場は静岡ダービーでの1試合のみだったが、そのダービー直後に渡欧。U-22日本代表での欧州遠征から帰国後に成長速度を上げてポジションを奪取した感がある。

実は昨年9月にも欧州遠征からの帰国直後に際立った活躍を披露していた。

栃木でプレーしていた彼はチームに新型コロナウイルス感染者が続出する中、実戦経験が浅い急造のDFラインを牽引。試合後には「足が攣っていた」と明かしたが、決してそうは見えない冷静かつスマートな対応で、その後に天皇杯で優勝するヴァンフォーレ甲府を相手に1-0の完封勝利に大きく貢献。サポーターには「鈴木海音で勝った試合」と呼ばれていた。

「確かに代表戦のあとに調子が良くなるイメージはあります。自分たちと同世代とはいえ、ヨーロッパの代表チームはJ2よりもスピード感があって強度も高く、どのチームもレベルが高いです。欧州遠征に行くごとに自分の全ての基準が上がって帰って来ている気がします」

現在のU-22日本代表は昨年9月にイタリア(△1-1、モンツァMFニコロ・ロヴェッラや、今夏よりトッテナム合流のDFデスティニー・ウドジェらが出場)、11月にはスペイン(●0-2、バレンシアMFニコ・ゴンサレスやセビージャFWブライアン・ヒルらが出場)、ポルトガル(〇2-1、アーセナルMFファビオ・ビエイラやマルセイユDFヌノ・タヴァレスらが出場)、今年3月にはドイツ(△2-2、ヘルタ・ベルリンFWジェシック・ヌガンカムやフランクフルトMFアンスガー・クナウフらが出場)、ベルギー(●2-3、アルメリアFWラージー・ラマザニやモナコMFエリオット・マタゾらが出場)ら、パリ五輪にも出場可能な強豪国の同世代たちと、全て欧州の地で対戦してきた。鈴木海音は上記した5試合中4試合に先発出場している。

「これだけの強豪国と欧州で試合ができることは嬉しいことです。ただ、欧州のチームとの試合では毎回のように前半に押し込まれることが多くて、時間の経過と共に落ち着いていくんですけど、もっと入りから真っ向勝負で行かないといけません。先に失点して苦しい状況になるのは自分たちなので。DFラインを下げ過ぎずにどれだけ耐えられるか、前に出て潰せるところで潰し切れない場面もあったので、そこは個人としてもチームとしても今後の課題だと捉えています。相手の同世代の選手はすでにA代表に招集されている選手も多く、U-22には招集されていない選手も多いです。それでも相当なクオリティとパワーです。そういう意味でも自分たちは個人個人のところで勝てていないと感じています」

来年にはパリ五輪も開催され、その出場権獲得を狙うアジア予選は、今年9月6日から12日にかけて行われる『AFC U23アジア杯予選』からスタートする。「W杯優勝」を目標にする鈴木海音にとっても、パリ五輪は飛躍の舞台にしたい大きな国際舞台だ。

「パリ五輪はすごく大きな大会ですし、対戦相手のレベルも今までより1段階も2段階も上がると思います。まずはジュビロで結果を残して、代表に入り続けていく。パリ五輪にも入るだけでなく、大舞台でも試合に出て結果を残し、A代表にも選出されるような選手になりたいですね。そのためには、これからも成長し続けていくしかないと思っています」

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取材後、鈴木海音は6月10日にU-22イングランド代表、14日にはU-22オランダ代表と対戦するU-22日本代表に招集された。

渡欧直前のJ2第19節、ブラウブリッツ秋田戦を2-0の完封勝利で飾り、良い状態のまま代表に合流している。欧州の強豪2カ国相手に成長してきたものをぶつけてもらいたい!

<プロフィール>

鈴木海音(すずき かいと)

2002年8月25日生まれ(20歳)
静岡県浜松市出身
182cm/72kg
ポジション:DF

磐田U-18在籍時の2019年3月に2種登録され、翌年4月に高校3年ながらプロ契約を締結。2020年はJ2で6試合に出場するも2021年はリーグ戦で1度も出場機会を得られず、2022年は育成型期限付き移籍にて栃木でプレー。J2リーグ34試合(先発33)に出場し、今季より磐田へ復帰。第19節終了現在13試合(先発13)に出場中。15歳の頃から年代別日本代表として活躍する現・U-22日本代表CB。両親が音大出身で、海の近くで生まれた息子に「海音」と名付けたのが名前の由来。

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