丹後ちりめんをオーダースーツ感覚で 和装小売業3代目「着物を日常着に」

着物に仕立てる丹後ちりめんの反物を手に取り、長さを測る野木さん(京丹後市大宮町・野木纏家)

 「着物は、着る人を場面に応じてより美しく演出する。身にまとう楽しみを実感してもらいたい」。野木教貴さん(41)=京都府京丹後市大宮町= は、丹後ちりめんの反物に長さを測る二尺差しを添え、いとおしむように手に取る。「機織りや染色の作り手の高い技術やこだわりをお客さんに伝え、価値を十分に納得してもらえた時の喜びは格別」。丹後を中心に各地の職人が手掛けた反物や着物を扱う販売のプロとしての自負が、着慣れた和装の所作ににじむ。

 1953(昭和28)年創業の老舗和装小売業の3代目。幼い頃から2代目の父親や女将(おかみ)の母親が働く姿を見て、いつかは継がなくてはとの思いがあったが、将来の目標はなかなか定まらなかった。

 京都精華大(京都市)人文学部4年の時、父の勧めもあって、全国の農産物を販売する都内のベンチャー企業でアルバイトとして働き、卒業後、そのまま就職した。「生産者と触れ合う機会もあり、作り手のこだわりをお客さんに伝えると、商品が面白いように売れた。家業に通じると実感した。父の思惑通りに乗ったのかも」と振り返る。

 25歳で故郷に帰り、家業を継いだ。取引先の織物業者や染色、仕立職人と関わる中で、着物が仕上がるまでの職人技に触れ、品質を見極める目を肥やし続けた。「作り手さんに売り手としての自分を鍛え、育ててもらった」と感謝する。

 昨年11月には、着物をビジネスの現場で活用してもらおうと、丹後ちりめんをオーダースーツ感覚で気軽に着こなす着物に仕立てる事業を始めた。作り手と売り手の思いを伝えると、働き盛りの30~40代の若手経営者5人が「商用に」と購入してくれた。「着物をかつてのように、日常着として使ってもらえる場面を少しずつでも増やせていけるはず」。確かな手応えを感じている。

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