社説:改正入管難民法 外国人の命と権利を脅かす

 外国人の命と人権を脅かしかねない。

 国内外から強い懸念を示されていた改正入管難民法が成立した。公布後、1年以内に順次施行される。最大の問題は、本国で迫害を受ける恐れがある人を強制送還できるようにしたことだ。

 国会審議で不透明な難民審査や収容施設運営が問題化したのに、与党と一部の野党が押し切った責任は重い。

 本当に必要な人が保護されるのか。国際的にも厳しい目を向けられることを、政府は認識しなければならない。

 外国人の収容・送還のルールを見直した改正法は、入管施設の長期収容解消を目的に、難民申請中の強制送還停止を原則2回に制限するのが柱だ。

 入管当局は、送還を逃れる意図で難民申請を「乱用」する例が多いと強調。不法滞在などで強制退去を命じられても、送還を拒む外国人の退去を進めるため、3回目の申請以降は「難民認定すべき相当の理由」を示さなければ送還可能とした。

 だが、そもそもブラックボックス化した難民認定の在り方に、根本的な問題があることを忘れてはならない。

 難民条約を批准しているにもかかわらず、日本は欧米に比べて難民認定が厳しい。認定率は2001~20年の20年間で年間平均1%未満と、先進諸国と比べて著しく低い。

 疑われているのは、入管当局の恣意(しい)的な運用である。

 国会審議では、不認定者の再審査に関わる参与員が100人超もいるのに、特定の1人に審査案件が極端に集中していたことが明らかになった。この参与員が発言した「申請者に難民はほとんどいない」という立法根拠も大きく揺らいだ。

 大阪入管の常勤医師が酒に酔って収容外国人を診察していた問題も浮上した。収容者からは「『不法滞在なんだから早く帰りなさい』と言われた」との声が上がっていたという。

 法務省や入管当局に対する不信感は、国会審議を通して深まるばかりだった。

 衆院法務委員会では、専門家が「(申請中の送還は)間接的に死刑執行ボタンを押すことに等しい」と警告した。送還後に殺されたり、拷問されたりすれば国際法違反になる。当局は深刻に受け止めねばならない。

 入管を巡っては20年8月、収容者からの通報で国連の作業部会が調査し、長期収容を国際人権規約違反とする意見を採択した。07年以降、スリランカ人女性ら17人が収容中に亡くなったことも判明した。

 長期収容の解消を掲げながら、収容期限の上限を定めず、収容の可否が入管の判断次第では国際水準にかなわない。

 司法の関与を含む独立した第三者の審査機関などを真剣に検討し、法の見直しに踏み込むことをためらうべきではない。

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