【広瀬すず】主演作は“恋愛をしない主人公”「幸せオーラがないのかな?(笑)」映画『水は海に向かって流れる』インタビュー

撮影/川野結李歌

広瀬すず最新主演作『水は海に向かって流れる』は、シェアハウスを舞台にした物語。ワケありの情況を抱えた人間模様の中核を成すのが、広瀬演じる榊さんと高校1年生の直達(大西利空)の関係。直達は10歳年上の女性、榊さんに憧れを抱くが、彼女は恋愛をしないと決めている……。

春に放映を終えた連続ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』をはじめ、広瀬が体現してきたヒロイン像はいつだって観る側の洞察本能を刺激する表現に満ちている。本作もやはりそうで、広瀬の演技アプローチが“世界でたったひとりの誰か”の情動を形作る。榊さんとは何者なのか? 現代日本を代表する女優のひとりに単刀直入に訊いた。

【広瀬すず】映画『水は海に向かって流れる』インタビュー写真

彼女は16歳のまま心が止まっている

撮影/川野結李歌

──榊さんは、ある怒りを抱えていますが、だからこそ冷静であろうと努めているように映ります。クールであろうとすることが結果的に、生きるためのスタイルになってしまっていると言いますか。彼女固有の問題を抱えていながら、男性の自分も他人事ではいられない共振力を感じました。広瀬さんは、榊さんをどのように捉えて演じていましたか。

今回の設定、たとえば10歳年下の男の子と、という部分が映画のプロモーションにはなるのですが、彼女は16歳のまま心が止まっているんです。

怒ることって本当は年齢に関係のないことだと思うんです。でも、ピュアにムカついたこと、腹が立ったことも、10年間生きてきたことで、色褪せて霞んでいく。それがお腹の底に溜まったマグマみたいになっていて。

だから、そういう怒りをまだ感じたばかりの直達くんと同じ感情なんですよね。ただ、持っているものの重さが違う。それはただの月日なだけなので。だから、10歳年下だからどうの、よりも、直達くんは自分の気持ちを知ってくれた人。その関係性だと思えました。

逆に彼女は優しい人なんだろうなと。だって10年黙り続けてこれた訳ですから。自分が流せばいいだけ、普通に生きられたらそれでいい。そんな風に感情を押し殺し続けて。なんて心が寛大な人なんだろう、と思いました。私だったら(腹が立つことがあったら)嫌味としてブツけたくなる。だって相手も後悔してほしいから。そういう意味では、私は見返りを求めるタイプではありますね。

彼女は16歳のまま止まっているんだけど、何周もその気持ちが回り過ぎている。こういう人はいるよな、きっと優しくて強い人なんだろうなと思いました。決して綺麗な優しさと強さではないですけど。でも、大人になろうとしているのがすごいなって。

──耐久力のある人ですよね。10年前の怒りを、温存してこれたわけですから。

そうなんです。榊さんは、変人にもなっていないし。

──変人になってしまってもいいですよね。屈折して、こじれて。その可能性もあったはずなのに。何にも動じない、が極端に突き進めば、変人にもなり得るキャラクターです。

感情の吐き方もベースが崩れてないというか。そこが演じていて面白かったですね。

撮影/川野結李歌

──当初、軽く緊張状態でもあった榊さんと直達の関係が、猫を通して、ふいにほどける短いシーンがありますよね。まず、あのときの広瀬さんのお芝居がとてもよかった。そうだよね、榊さんってほんとはこんな人なんだよね、と素直に納得できたんです。おそらく、ああいう要素も広瀬さんが、あのシーンまでに積み上げてきていたからだと思います。自分も含めてみんな、こういうところ、あるよなって。

甘えられるって楽ですからね(笑)。でも、あのシーン、最初は、どうやってやろうかな……と思っていました。動物に罪はない、そういう思考なのかなと(笑)。

動物には別に(本当の)自分を見せても、なんの返事も返ってこないから楽だ。案外、意外といけるかも。それをたまたま直達に見られていただけ、という感じなのかなと。動物に甘えてるだけかもしれない(笑)。そんな風に解釈できて、思ったよりスムーズにできました。

──榊さん、実は素直な人なんですかね。

素直……我慢というのとは違いますね。流れる……『水は海に向かって流れる』というタイトルが榊さんの感情の流れ方を指しているような。ある意味、達観している。ある意味、すごく寂しいなあとも思う。だけど、優しい人なんだろうなと。

一歩テイストを変えたら結構重い題材でもそれをポップに繊細に描いているところに惹かれました

撮影/川野結李歌

──いろんな人を演じてきたわけじゃないですか。そういう人物像は、どんな風に探っていくんですか。

榊さんについては、周りの人たちが台詞にしてくれているんですよ。私は「そうか、そうか」と思うだけです(笑)。

(人物を捉えるのは)難しいですよね。でも私は直感的なものしか信じていないタイプなんです。(脚本を)読んだときの第一印象で。今回は、登場人物にいろんなクセ者がいっぱいいたので、みんなどういう空気感で来るんだろうと。この人は、こんな色なんじゃないかと直感で“見えた、感じた”だけでクランクインを迎えました。そこは大きかったかもしれないです。

──ヘンな映画ですよね。色で言えば、いろんな色が混じり合っていて。

なかなかないですよね。重くもあるし、ポップでもあるし、シュールでもある。私はとても好きでした。

──面白いところをすり抜けていく“水路”みたいなものがあるんですよね

感情の流れが、どこか救ってもらえるような瞬間があるというか。人って溜まるものは溜るじゃないですか。それをさーっと流してくれそうな時間の流れ方をしてるというか。

ストレスを抱えずに帰れる映画です。映画って、あれってこうだったのかな?って、いろいろ考えたりするじゃないですか。でも、そうじゃなく、すっと帰れる(笑)。

撮影/川野結李歌

──榊さんって、あるトラウマを抱えているけれど、自分本位に生きてきた人ではないですよね。悲劇の主人公として、自分を捉えてはいない。直達のこともちゃんと考えてあげられる。そこが素敵だなって。

いい具合の作品テイストなんですよね。思ったより、さっぱり気持ちよくて。じわじわ物語が進んでいって、観ている人にも、じわじわ届く。

一歩テイストを変えたら結構重い題材ではあるんですけどね。私は(役柄として)重いものをいただくことが多いから、(脚本を)読んでいて、また重い役が来たかな……と思ったのですが、こんなにポップに繊細に描くということがこれまではなかったから、それに惹かれてやりたくなりました。

榊さんは、“自分を知ってもらう楽さ”をこの年齢(26歳の設定)で知ったというか。甘えられる人がいない人も多いじゃないですか。特に親のことって、いろんな親子の形があるから、(誰に話しても)察してはもらえても、知ってもらうことって不可能だろうなって思うけど。

目の前の直達を通して、自分が抱えていたピュアな感情を遅れて目の当たりにしたら……私もそこまで経験したことないから分からないですが、直達くんが榊さんの代わりに泣いてくれているようなシーンは、気持ちいいほどちゃんと悲しんでいるマインドに救われたし、だから言えた台詞もあるんですよね。

現場に行ってみないと、どうなるか予測がつかないシーンが多かったなって思います。でも、ヒントはいろんなところにあったなって。

撮影/川野結李歌

──広瀬さんの演技には俯瞰的な視点があるなと、いつも感じます。そこも信頼できる点です。重い役が多いことについてはどう感じていますか。

私、そんなに可哀想に見えてるのかなぁ?って思いますね(笑)。明るい作品もあるんですよ。でも、悲しい設定が多いんです、映画でもドラマでも。それに、なぜか役名はカタカナが多いですね。

──ある傾向はありますね。でも、全て、広瀬すずにしか演じられない役だと思います。

同世代の女優さんたちにはある幸せオーラがないのかな?(笑) でも、嫌じゃないですよ。幸せになれる役をやりたいなとは思うけど、演じているときは(重い役も)楽しいです。

ヘアメイク/奥平正芳 スタイリスト/Shohei Kashima
衣装協力/ワンピース(AMERI/Ameri VINTAGE)、右耳ピアス(little emblem/E.M.青山店)

作品紹介

映画『水は海に向かって流れる』
公開中

(ウレぴあ総研/ 相田 冬ニ)

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