上空から人命救助 県消防防災ヘリ「おおるり」 航空隊訓練同行ルポ

訓練で機内に救助者を引き上げる航空隊員たち=8日午前10時25分、益子町

 山岳遭難や大規模火災などの現場に上空から駆け付け、人命救助や消火活動に当たる県消防防災航空隊。1996年の発足から約27年、最前線で活動を続けている。2011年の東日本大震災や14年の広島土砂災害、21年に足利市の両崖山で発生した大規模山林火災など、県内外の現場に出動してきた。県消防防災ヘリ「おおるり」は航空隊員たちの大切な“相棒”だ。安全な救助活動に欠かせない日々の訓練に記者が同行した。

 8日午前。拠点を置く芳賀町のヘリポートから、色鮮やかな「おおるり」が飛び立った。操縦士2人と隊員4人とともに記者2人が同乗した。離陸直後は揺れたが、すぐに安定した。

 床に片膝を立て隊員たちが窓から目を光らせる。「バード(鳥)いる」。エンジンやプロペラのごう音のため、近くにいる操縦士にも無線で情報を共有した。

 航空隊には県内の各消防本部から救助隊員の熟練者が派遣される。任期は3年。23年度は消防隊員9人と委託先の操縦士4人、整備士ら計21人で構成する。

 同隊運航責任者で県消防防災課の小堀伸彦(こぼりのぶひこ)副主幹は「所属の自治体は異なれど、高い目的意識を持つエキスパートたち」と評する。配属を志願する地上の隊員も多いという。

 離陸から間もなく、益子町の訓練場上空に近づくと、両側のドアが開いた。機内へ一気に風が流れる。隊員たちは表情を変えず、身を乗り出して降下場所を確認した。

 遭難や災害現場まで車両や徒歩だと数時間かかる場合でも、おおるりは県内を16分以内でカバーする。この日も約20キロ離れた訓練場所まで約10分で到着した。

 要救助者をつり上げ救出する訓練が始まった。ヘリからワイヤで隊員2人が降下。要救助者を素早く担架に固定し、上空の隊員と手信号などで意思疎通を図り、引き上げた。

 高橋勝(たかはしまさる)副隊長は操縦士と隊員の連携の重要性を強調し、「救助にヒーローはいらない。チームで淡々と冷静に行うこと」と語った。

 同隊は22年度、遭難救助や火災など緊急運行として89件に出動した。訓練を含め、発足からこれまで無事故で運行している。笹沼奨司(ささぬましょうじ)副隊長は「無事故の伝統を引き継ぎ、救助活動を続けていく」と誓った。

訓練を終え、ヘリポートに戻る機内。左は本紙記者=8日午前10時40分、芳賀町上空

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