静岡県熱海市伊豆山地区を襲った土石流災害からまもなく2年が経とうとしています。介護タクシーを営む河瀬豊さんと愛美さん夫妻は土石流が伊豆山を襲ったあの日、命がけで住民を助けました。称えられるべき2人ですが、本人たちは「あの日、まだできることがあったのではないか?」と住民のためにできることを探し続けています。
車が通れない細い道。この日、河瀬豊さんと愛美さんは伊豆山地区で暮らす79歳の利用者の家を訪ねました。
<河瀬愛美さん>
「もう一段いける?」
<天野栄子さん>
「がんばる。ありがとう」
5分以上かけて介護タクシーに向かいます。10年前に介護タクシーを始めた河瀬さん。従業員たった3人の会社ですが、月に約90人が利用します。通院だけでなく、買い物など日常生活のお手伝いもします。
<河瀬豊さん>
「熱海の場合は特に車が入れない狭い道や坂と階段が多い。家族の介助だけだと、なかなか外出させるのが難しい場合が多い」
病院の検査を終えて、帰ってきました。
<天野栄子さん>
「こうしてお世話になるということは宝です。感謝です。感謝より何もない」
6月7日の午後、集まってきたのは熱海市伊豆山地区の住民。週に1度の野菜の移動販売です。
<河瀬豊さん>
「ピーマンこれ?選んでいい?」
河瀬さん夫婦は仕事の合間を縫って住民の買い物も手伝います。
<河瀬豊さん>
「地域の人を1人でも多く知っておいた方が、いざああいった時により多くの人を助けられるかなというのもあるし。普段からの関係づくりが大事だと痛感した」
2021年7月、土石流の被害にあった熱海市伊豆山地区。大量の土砂が流れる中、河瀬さん夫婦は住民12人を命がけで助け出しました。県内が大雨に見舞われた今月9日。愛美さんは住民の家を訪ね、声をかけました。
<河瀬愛美さん>
「どのくらい降るかわからないから、川が心配。夜中だと移動ができないからね。ちょっと私たちも心配なんだけど。大丈夫?」
<河瀬豊さん>
「通行止めになっちゃうと伊豆山の事務所に来れなくなるから、きょうは事務所に泊まる」
河瀬さん夫妻は熱海市周辺に大雨の予報が出るたび、泊まり込みで事務所に待機します。
<河瀬愛美さん>
「あの日の7月3日の数日前が本当にすごかったのをいまだに覚えているので、こういう日に私たちが泊まりますと言うと、近隣の人が明かりがついていると安心すると言うので」
<近所に住む鈴木さん>
「充電してたんだけど、ちょっと調子が悪い。ちょっと見てもらって」
利用者ではない近所の住民が「携帯の充電ができず娘に連絡が取れない」と訪ねてきました。
<河瀬愛美さん>
「これでたぶん充電」
<鈴木さん>
「ありがとう。いやぁよかった」
<河瀬愛美さん>
「大丈夫?傘持ってます?」
「あの土石流を経験しているからこそ、安全第一、命優先だと思っているので、回避できるものは回避したい。それが外れだったとしても、外れたら外れたでそれはよかったとなるので」
<中西結香記者>
河瀬さん夫婦が伊豆山地区にとって欠かせない存在になっているのは、この地区が抱える現状があります。熱海市伊豆山地区の住民の年齢構成ですが、60歳以上の住民は人口の7割近くに及びます。
<滝澤悠希キャスター>
伊豆山地区は坂や階段が多い熱海特有の地形でしたね。
<中西記者>
この地形が、高齢者が一人で生活することをより難しくしています。河瀬さん夫婦は伊豆山にとって欠かせない存在と言いましたが、裏をかえせば個人の熱意や努力で高齢者の生活が支えられているとも言え、この問題を地域として、国として考えなければいけない時期を迎えています。