被災の食器で地元の味 珠洲にUターンの石井さん 定食屋オープン

住民から譲り受けた食器で料理を提供する石井さん=珠洲市宝立町鵜飼

 3年前に珠洲市にUターンしてきた石井ゆきさん(53)=同市宝立町春日野=が16日、同町鵜飼の空き家を借りて地元食材を使った定食屋を始めた。開店を目前に震度6強の地震に襲われたが、飲食店を開いて地域の役に立ちたいとの思いは揺らがなかった。店では地震で住民が手放した食器約200点を譲り受けて使い、思い出が詰まった食器とともに震災を乗り越える住民を食の面から支えていく。

 石井さんは飯田高卒業後、大阪の専門学校に進んだ。その後、大阪や東京でお好み焼き屋や居酒屋などで働いていた。5年ほど前、珠洲に飲食店が少ないことが課題になっていることを知り、飲食店で勤務した経験をふるさとで生かしたいと考え、2020年秋に東京から珠洲に戻った。

  ●空き家改装海も一望

 空き家を借りて開店準備を進めていた5月5日、地震に襲われた。店内の被害はごくわずかだったものの、周囲には自宅が被災した住民が何人もいた。石井さんは食事面で地域を後押ししようと、片付け作業に追われる住民やボランティアにお好み焼きを配って喜ばれた。

 活動中、地震で家が傷んだり、棚などが壊れたりして食器を捨てる人がいることを知った。住民が愛用してきた思い出の品を捨てるのはもったいないと思い、皿や湯飲みなどを譲り受け、利用することにした。

 「あわあわもちもち」と名付けた店は鵜飼川河口沿いにあり、2階からは海を一望することができる。テーブル4席、座卓12席を設け、壁にはイラストレーターが描いた町の風景やキリコの絵などを展示した。

 メニューは珠洲産の野菜のほか、地元商店街が扱う肉や魚をふんだんに使った唐揚げやプルコギ、ブリの照り焼き定食、小木港で捕れたイカを使ったお好み焼きなどをそろえた。営業時間は正午~午後3時と、予約制で午後7~10時。

 店に足を運べない高齢者らのために宅配サービスも行う。石井さんは「住民たちの思い出が込められた食器で里山里海の食材を味わってほしい」と話した。

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