LGBT理解増進法は「差別増進法ではないか」 ユーチューバーかずえちゃんらが批判の声

LGBT理解増進法のポイント

 LGBTなど性的少数者への理解増進法が成立した6月16日、福井県内の当事者や支援団体は「少数派の権利を守るための法律なのに、多数派の権利尊重になっている」と一様に批判した。

 今回の法案を巡る与野党の修正協議で、「全ての国民が安心して生活することができるよう留意する」と多数派に配慮する条項が設けられた。ゲイ(男性の同性愛者)でユーチューバーのかずえちゃん(40)=福井市=は「LGBTQは加害者という前提になっている。その加害者から多数派を守りますという文言。差別増進法ではないかと、憤りを感じる」と話した。

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 NPO法人「なろっさ ALLY(アライ) ふくい」代表で、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの山口初さん(65)=福井市=は「少数派にも同等の権利を与えてくださいという法律のはずが、多数派の権利尊重になっている」と批判した。

 多数派配慮の条項の背景には、「女性を自称すれば、男性も女湯や女性トイレに入れる恐れがある」といった言説が広まっていることが背景にあるとみられる。「なろっさ! ALLY えちぜん」の藤田美保代表は「(女湯などに侵入する)犯罪とトランスジェンダーの人権とは別問題」と指摘。「一般社会では同性婚に賛成する人も多く、LGBTQへの国民の理解は進んでいる。政治家の意識に大きなズレがある」と述べた。

 法律に使われる言葉も議論の過程で変遷した。2021年に与野党実務者間で合意した「性自認」の表現は、主観的だとして、与党案で「性同一性」に置き換わり、可決された修正案ではどちらにも訳せる英語の「ジェンダーアイデンティティ」になった。山口さんは「なぜ意識に重きを置く『性自認』という言葉を使えないのか。理解増進法なのに後退している」と話した。

 LGBT理解増進法 同性愛者や、出生時の性別と自認する性別が異なるトランスジェンダーを含む、LGBTなどと称される性的少数者に対する理解を広めるための議員立法。超党派議員連盟の実務者が2021年に合意したが、自民党保守系議員が反発し、国会提出は見送られた。首相秘書官による今年2月の差別発言を契機に岸田文雄首相が法案の再検討を自民に指示。与野党が計3案を国会提出した。与党は日本維新の会と国民民主党の案を受け入れ、修正案を共同提出した。

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