丹波焼は山で土採取から、自転車ツアーはガイド付き 兵庫・丹波の観光誘客、カギは「コト消費」

陶勝窯の市野勝磯さん(右)から一対一でサポートを受けながら陶芸体験した=丹波篠山市今田町上立杭

 近年、消費者が物の購入ではなく、体験やサービスを重視した「コト消費」にお金を使う傾向から、体験コンテンツは観光誘客の呼び水として注目されている。兵庫県の丹波地域でも伝統産業や地域の魅力に迫る体験プログラムの提供が増え、丹波焼の産地で行われた企画では参加者も窯元も満足感を得るなど、成果が生まれている。地域と多様に関わる「関係人口」増加など、波及効果も出てきた。(谷口夏乃) ### ■窯元も価値再認識

 4、5月、丹波篠山市今田町立杭地区で焼き物作りの一連の工程を学び、最古の登り窯の近くで、作った器を使って食事する企画があった。2日間の日程で行われ、県内外から訪れた24人の参加者が、陶工らとの交流を楽しんだ。

 1日目の焼き物作りでは、陶工から丹波焼の歴史などを聞いた後、山に入って土を採集した。窯元見学と陶芸体験で訪れた「陶勝窯」(同市今田町上立杭)では、市野勝磯(かつき)さんが窯や作陶について解説。「土作りから焼き上げまで全てが陶芸。成形はほんの一瞬で、それ以外の工程に時間がかかる」などと語った。

 参加者は器だけでは分からない、丹波焼の裏側や物語に熱心に耳を傾け、質問などをしながら知識を深めた。陶芸体験では一対一で市野さんのサポートを受け、マグカップや一輪挿しなど思い思いの作品を制作した。

 神奈川県鎌倉市から訪れた会社経営者の男性は「産地を訪れることで感じ、分かることがあり、話を聞くことで物の見方も変わった。ここでの学びは仕事や日々の生活などに生かせそう」と話した。

 プログラムを企画したのは、地域の人と来訪者をつなぐ取り組みなどを行う「Satoyakuba」の田林信哉さん(40)。

 「器が出来上がる過程を最初から知り、丹波焼の本質に触れる深い体験を提供したいと考えた」と田林さん。「丹波焼の成り立ちを理解した来訪者に感じたことを言葉にしてもらい、窯元たちに『自分たちの営みにはそういう意味合いがあるのか』と再認識してもらいたかった」と語る。

 市野さんは「お客さんと話すことで作品のインスピレーションを得られる」といい、田林さんは「必ずしも来訪者だけではなく、窯元さんも価値を受け取る。(体験により)予想以上の相乗効果が生み出されているのはおもしろく、これからもやる価値がある」と期待を寄せる。 ### ■自転車ツアーには固定客

 丹波サイクリング協会では、ガイド付きのサイクリングツアー「ツールド丹波」を2018年から開催する。ツアーは季節ごとに催され、桜や紅葉などの景色をめでたり、途中で旬の食を堪能したりして丹波市内を自転車で巡る。

 サイクリング自体が体験コンテンツだが、見落としがちな地域の魅力を伝えるため、同協会ではガイド形式を採用。その満足度の高さからか、同ツアーには固定ファンがついており、毎回参加者の半数をリピーターが占める。京阪神地域を中心に関東、中国、四国地方の人もいるという。情報拡散にも協力的で、ふるさと納税をしたり、自ら友人を連れて再訪してくれたりする人もいる。

 同協会では地域側の理解を深めようと、クロスバイク試乗などの体験会も行う。同協会の松井崇好会長(39)は「地域で理解者が増え、サイクリング中に住民からのあいさつや来訪先で自転車スタンドがあると、サイクリストは地域に受け入れられていると感じ、また訪れたくなる」といい、継続した体験の提供には、環境を整え磨き続ける必要性を指摘した。

### ■「コト体験」提供事業者募る 県民局が補助金、来月審査会

 丹波県民局は、大阪・関西万博をはじめとした訪日客需要の増加を見据え、地域資源を活用した「コト体験」コンテンツの開発や拡充を行う事業者を募集している。取り組む事業者には、経費の一部を最大20万円補助する。

 対象は丹波地域に店や活動拠点がある中小企業▽中小企業団体▽小規模事業者▽複数団体などによる実行委員会▽個人事業主。

 7月にある審査会に出席する必要があり、地域経済への貢献性や誘客の実現性などが審査される。採択件数は12件程度。

 6月30日締め切り。県民局ホームページから所定の用紙をダウンロードして、必要事項を記入後、県民局県民交流室産業振興課まで持参(平日午前9時~午後5時半)するか、郵送またはメールする。同課TEL0795.73.3788

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