大病から回復、開いたのは「卵かけご飯」の店 メニューは一つ 全国から客が集まる人気店に

店主の谷掛美津子さん=丹波篠山市本郷、「たまごかけごはん こいずみ」

 兵庫県丹波篠山市の北部の山あい、鼓峠を北へ下った県道沿いに、大きな卵を描いた白幕が目立つ食堂がある。「たまごかけごはん こいずみ」(丹波篠山市本郷)。店主の谷掛美津子さん(76)は約7年前、病に倒れ、長年営んでいた居酒屋をたたんだ。回復後の昨夏、「またお客さんに会いたい」と同じ場所で開いた店は、県内外のライダーや家族連れでにぎわう。(谷口夏乃)

 メニューは「たまごかけご飯定食」(千円)ただ一つ。入店した客は、まず自分で茶わんを選ぶ。趣のある魅力的な陶器の数々についつい目移り。谷掛さんが丹波地域のPRも兼ね、丹波焼や店近くに住む陶芸家の作品をそろえたという。

 茶わんを決め、さあ実食。12個1セットのトレーから卵を取り、専用の卵割り器で殻を割る。しょうゆをたらし、卵を溶き、土鍋炊きのご飯に流し入れる。ふっくらとした白米に絡む濃厚な黄身と白身。シンプルだからこそ、素材の味をより楽しめた。

 食材も、丹波篠山産のコシヒカリ▽カンナンファーム(丹波市春日町栢野)の卵▽田中醤油(しょうゆ)店(丹波篠山市新荘)のしょうゆ▽黒豆みそ▽黒豆茶-と地元産。2種類のしょうゆや天かす、塩などで味を変えられ、一品でも飽きが来ない。

 卵とご飯はおかわり自由。5升もの白米を炊く日もある。「おなかいっぱい食べ笑顔で帰って」。谷掛さんは、店に立てることを心から喜んでいる様子だ。

 以前の店は地区で唯一の居酒屋だった。阪神・淡路大震災を機に大阪の夫の酒店を廃業し、残った酒類を一掃するため始めたはずが、20年以上続く人気店に。しかし脳梗塞で倒れ、閉店するしかなかったそうだ。

 客との会話が生きがいだったため、体調を取り戻すと「もう一度店をやりたい」と発起。体のことを考え、調理や接客の負担が少ない「卵かけご飯」の専門店にした。昨年5月、店舗改修の資金をクラウドファンディング(CF)で募り、同年8月にオープンした。

 今はCFの支援者らが全国から訪れる。「私のことを知ったお客さんが『応援してます』と声をかけてくれる。その言葉にまた頑張ろうと思える」。そう語る谷掛さんの朗らかな表情が印象的だった。

 土日祝日営業。午前7時~午後1時(12~3月は午前9時開店)。こいずみTEL080.5161.1266

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