観光客によるにぎわい=地域住民の幸せとは限らない 「新幹線学」櫛引素夫教授に聞く新幹線の開業効果

「新幹線開業を契機に、持続可能な地域の在り方を考えてほしい」と話す櫛引素夫氏=5月26日、福井県福井市のJR福井駅西口

 「新幹線学」を研究し、北陸新幹線沿線を中心とした産官学の関係者による連絡会議の発起人でもある櫛引素夫・青森大学社会学部教授が、福井新聞のインタビューに応じた。櫛引氏は新幹線の開業効果について「観光客でにぎわうことが、地域住民の幸せにつながるとは限らない。来春開業する福井には、地域内で人とお金が循環する持続可能な地域の在り方を見つけ出してほしい」と述べた。

 ――北陸新幹線越前たけふ駅には道の駅が隣接している。新幹線駅前の開発について。

 「駅前にはビルが必要とか、駅前イコール繁栄だ、というのは昭和の幻影であり、ノスタルジー。新青森駅には函館市の医療法人が経営する病院ができた。函館から医師が新幹線で来て、手術をして帰ることができる。青森の医師のレベルアップにもつながった。駅前開発については道の駅、産業団地などいろいろな切り口があっていい」

 ――新幹線を使って道の駅に来ることは考えにくい。

 「新幹線利用者だけをターゲットにしても仕方がない。交通手段は、車でも飛行機でも在来線でも何でもいい。新幹線が金沢開業したとき、特急サンダーバードで大阪から金沢に行く人が増えた」

 ――敦賀駅の駅舎の高さは37メートルで、3階に新幹線ホーム、1階に在来線特急ホームがある。

 「敦賀駅での乗り換えは物理的に大変で、開業後はインターネットなどで批判する人が出てくるだろう。その前に、37メートルを逆手に取って楽しんでもらうイベントを企画するなどの対策を取るべきだ。筋トレによいとか、(兵庫県西宮市の伝統神事である)『福男選び』のように誰が一番早くたどり着けるかとか、開業1カ月前に運動会をやってしまうとか。ネガティブイメージが先行したら手遅れだ」

 ――著書で「新幹線の目的は誘客ではない」と指摘している。

 「目的は福井ならではの幸せを探して実現すること。誘客はその手段。例えば函館市は、観光地としての魅力は高いが、人口流出が激しい。旅行で富裕層が入ってきて、にぎわっても、それが地元住民にとって幸せとは限らない。地域内でお金や人が回る仕組みを作り、持続可能な地域住民による地域住民のための繁栄を考えてほしい」

 ――新幹線開業効果について。

 「青森県では開業前に高校生たちがまちづくりに参加した。自分たちの地域は自分たちでつくるという思いこそが新幹線効果。人が育てば、いろいろな場面で活躍できる。例えば農林水産業の振興でも力を発揮してくれる。長い目で地域の活性化につながっていく」

 ――新幹線で社会は変わるか。

 「他県の学校に通学できたり、出張が日帰りでできたりする。つまり、地元に住みながら、他地域に行ったり来たりできる。新たな行動原理が生まれ、人生のデザインが変わるケースもある。(人口減少が進む中)定住人口を奪い合うのは『ゼロサムゲーム』以下。行ったり来たりのネットワークで新たな視点が生まれる」=第3章おわり=

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 2024年春の北陸新幹線県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」。第3章のテーマは「新幹線が来たまち」です。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

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