悲願の新幹線駅開業から20年、手放しでは喜べない現状 福井県越前市と同規模…埼玉県本庄市

【グラフィックレコード】地元熱意実った駅
地元が建設費を負担して整備された「本庄早稲田駅」=埼玉県本庄市
仕事や通学の利用者が行き交う朝の本庄早稲田駅コンコース。改札を出てすぐに、駅建設の募金者名を記したプレートが設置されている(左)=埼玉県本庄市

 埼玉県本庄市は県北西部に位置し、人口は8万人弱。福井県の越前市と同規模の都市だ。東京駅から北陸新幹線「あさま」で約50分、午前8時過ぎに新幹線専用駅の「本庄早稲田駅」に着くと、徒歩圏にある県内屈指の進学校、早稲田大学本庄高等学院(高校)の生徒や、ビジネス客でエスカレーターに順番待ちの列ができた。

 駅の前には大きな県道が整備され、横断歩道を渡った先には大型スーパーやホームセンター、書店、飲食店などが連なるショッピングモールがある。県道をしばらく歩くと田畑も残り、地方都市でよく見かける郊外のロードサイドの風景が広がる。

 同駅は2004年3月、上越新幹線と北陸新幹線(長野新幹線)の新設駅として開業した。地域の要望で設置された「要請駅」だ。建設費115億円余りは県と市が3分の1ずつ出し、残り3分の1は半分を周辺町村が負担し、半分を早稲田大学をはじめとする民間の寄付で賄った。JR東日本管内の新幹線の要請駅は同駅と、くりこま高原駅(宮城県)のみで、約14億3千万円という多額の寄付が地域の熱意を物語る。

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 「駅誘致の話は上越新幹線計画の正式発表(1971年)の頃からあり、市民の30年越しの夢だった」。本庄市市街地整備室の福島清光室長補佐は説明する。当時、埼玉県北部は交通インフラが十分でなく「街の魅力を向上させるために、東京駅まで50分と通勤圏になりうる新幹線のスピードが必要だった」という。新幹線に未来を託す姿はどの地域も変わらない。

 ただ本庄市の元々の中心地は、本庄早稲田駅から直線距離で約2キロ離れたJR高崎線本庄駅周辺。市は田畑が広がっていた本庄早稲田駅周辺を「新都心」として約65ヘクタール区画整理した。元々早稲田大学本庄高等学院があったエリアは、同大の産学などの連携施設などとともに「早稲田リサーチパーク地区」として一体的に整備した。

 現在、住宅ゾーンに約550世帯が暮らし、物件が足りないほどの人気エリアという。福島さんは「広い道路や公園など環境面に加え“早稲田ブランド”も選ばれる理由」と説明する。

 産業ゾーンには2012年、ホームセンター大手のカインズ本社を県外から誘致した。県全体でも指折りの規模となる大企業の移転は、新幹線効果の一つだ。

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 ただこの約20年間、市民が新幹線のメリットを十分実感してきたわけではなさそうだ。駅で乗車客待ちをしていたタクシー運転手(70)は「観光地がないから新幹線駅があってもにぎわいを感じない。東京から来る人は、時間がかかっても料金の安い在来線を使う」と渋い顔だ。

 本庄早稲田駅は南に熊谷駅、北に高崎駅(群馬県)と利用者の多い駅に挟まれ、熊谷―高崎間は直通の新幹線ならわずか10分強。中間にある本庄早稲田駅は通過列車も多い。駅向かいのスーパーでは、市内の主婦(60)が「軽井沢のようにアウトレットでもできると違うのだろうけど」と、にぎわいを生む施設整備を求めた。

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 2024年春の北陸新幹線県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」。第3章のテーマは「新幹線が来たまち」です。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

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