「詐欺だ!」テレワーク勤務から“原則出社”移行に新入社員から怒りの声…会社を「訴える」ことはできる?

都心の“通勤ラッシュ”もコロナ禍前に戻った?(K@zuTa/PIXTA)

新型コロナ感染症の感染症法上の位置付けが、5月8日から5類感染症になったと発表されてからおよそ1か月が経過した。リモート・テレワーク勤務から、出社勤務に変更になっている企業も多いようで、SNSでは毎朝のように通勤時の満員電車に対する悲痛な声が飛び交っている。

新型コロナ5類移行時の働き方の変化について、今年3月、帝国データバンクが全国の企業を対象に行った調査では、「コロナ前と同じ働き方に戻す」と答えた企業と、テレワーク勤務など「コロナ前とは異なる働き方を続ける」と答えた企業がそれぞれ約40%とほぼ同数となった。

※帝国データバンク「新型コロナ「5類」移行時の働き方の変化に関する実態調査」をもとに弁護士JP編集部が作成

そんな中、「コロナ前と同じ働き方に戻した」企業の社員が、ツイッター上に「新入社員から『テレワーク導入企業だから応募したのに入社後に即廃止するのは詐欺行為だ。訴える。』との意見が出ている」と投稿して、話題を呼んだ。

現在、新入社員および就職活動中の学生らにとって、「働き方」は企業を選ぶ上で大きな判断材料になっている。株式会社学情が、2024年3月卒業(修了)予定の大学生・大学院生387人を対象に行った調査によれば、就職活動において「勤務スタイル(出社かテレワークか)」を「意識する」と回答した学生は65%を超えた。

さらに、勤務スタイルとして「毎日出社を希望する」と答えた学生は16.5%にとどまり、83.5%がテレワークと出社を組み合わせる「ハイブリッドワーク」か「完全テレワーク」を希望していることも同調査からわかった。

企業側が「テレワーク導入」をうたい求人を行っていた場合、新入社員としては入社後に突然テレワークが廃止されれば戸惑うだろう。しかし、前出のSNS投稿のように、「テレワークが廃止されたこと」で会社を「訴える」ことは果たして現実的なのだろうか。労働問題に詳しい横溝英紀弁護士に聞いた。

会社が決めた「テレワーク廃止」は無効にできる?

──テレワーク導入企業がテレワークを廃止した場合、従業員(労働者)は企業を訴えることができるのでしょうか?

横溝弁護士:企業はテレワーク廃止を適法であると考え、一方、労働者は違法であると考え、両者の主張が真っ向から対立しているわけですから、労働者としては、裁判所に対し、テレワークの廃止が違法(無効)であり、出社して就労する義務がないことの確認を求める訴えを起こすことができると考えられます。

──話題となったSNS投稿では、テレワーク導入企業という理由で企業に入社した新入社員が、入社後にテレワークが廃止されたことについて「詐欺行為」と主張しています。テレワーク導入企業がテレワークを廃止にする行為が「詐欺」にあたる可能性はありますか?

横溝弁護士:「詐欺」とは、民法上、他人を欺いて錯誤に陥らせ、その錯誤によって意思を表示させる行為をいいます。今回のケースを詐欺と主張することは非常に難しいでしょう。また、詐欺に対する法的効果は「契約の取り消し」です。投稿者の後輩(新入社員)としては、労働契約の取り消しよりも、企業に対し「法的な責任の追及(テレワーク廃止を無効にしたい)」を望んでおられるのではないでしょうか。

まずは「雇用契約書」をチェック

──テレワーク廃止を無効にしたい場合、労働者はまずどうすればいいのでしょうか。

横溝弁護士:まずは「雇用契約書(労働契約書)」や「就業規則」の内容を確認しなければなりません。

労働者と企業との間で個別に「テレワーク勤務」「出社不要」などを合意している場合、その内容が「労働契約」となり、企業がテレワークを廃止する際には、労働者の同意を得なければなりません(労働契約法第8条)。同意がないままテレワークが廃止されたのであれば、労働契約に違反しているということになります。

一方、個別の合意がなく、企業が就業規則上(「テレワーク勤務規定」など)でテレワークを採用しているという場合もあります。その中で、テレワークについて「事情の変化や業務上の必要性があれば、企業側の判断で許可を取り消すことができる」というような規定になっているかもしれません。その場合は、労働者が企業に対しテレワークを求めることはできないと考えられます。

もちろん規則上で労働者にテレワーク勤務の選択権がある場合は、原則として企業は労働者からのテレワーク勤務の求めを拒否することはできないでしょう。

──企業が就業規則を変更して、テレワーク勤務の制度を廃止した場合はどうでしょうか。

横溝弁護士:企業が就業規則を変更する際のルールとして、変更が「合理的」でなければならないとされています(労働契約法第10条)。合理的かどうかは以下の判断基準が用いられます。

①労働者の受ける不利益の程度
②労働条件の変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況
⑤その他の就業規則の変更に係る事情

これらを鑑みて、テレワーク廃止が合理的なものでない場合は、その変更は無効となり、労働者側は企業側に対しテレワーク勤務を求めることができます。

“入社後ギャップ”を防ぐには

──「テレワーク勤務の導入」以外にも、求人票に「転勤なし」「配置転換なし」などと書かれていたが、実際に就職してみたら違ったという話はあると思います。このような“入社後のギャップ“がないよう、求職者が求人票、雇用契約書(労働契約書)を見る際に気を付けるべきポイントなどがあれば教えてください。

横溝弁護士:労働契約の内容は、雇用契約書(労働契約書)や就業規則の内容で決まります。注意が必要なのは、求人票と雇用契約書(労働契約書)記載の労働条件の内容が異なっている場合があるということです。

面接時や入社時、企業が口頭で「テレワークを採用している」「転勤はない」「配置転換はない」と説明していたとしても、後々トラブルになった場合に「そのような説明はしていない」と言われてしまう可能性があります。

後々のトラブルを回避するためにも、入社時は、求人票や口頭での説明内容と雇用契約書(労働契約書)の内容に食い違いがないか確認してください。もしも食い違いがある場合には、企業に内容の訂正や説明を求めた方が良いでしょう。

また、就業規則は後々変更の可能性があります。そのため、どうしても譲れない労働条件がある場合は、雇用契約書(労働契約書)に明記すべきです。

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