京阪バスの自動運転実験、大津市が打ち切り示唆 事故で乗客けが「再開予定ない」

大津市と京阪バスが連携して運行実験に取り組んでいた自動運転バス(昨年12月、大津市)

 大津市内の公道で行われ、現在は中断している自動運転バスの運行実験再開を巡り、大津市と京阪バス(京都市)の溝が深まっている。中断は実験中の乗客転倒事故がきっかけで、運行主体の京阪バスは「安全対策を確かめるためにも再開が必要」とするが、共同で実験を進めてきた市は「得られるものは得た」として打ち切りを示唆する。自動運転は地域に貢献できる技術だとして京阪バスは大津での実験継続を求めつつ、京都市など他自治体での実施も検討し始めた。

 大津での実証実験は、高齢者らの新たな移動手段を確保したい市と、運転手不足の解消や新たなビジネスモデルの創出を目指す京阪バスが2019年に始めた。年に1回ほど、数日から数カ月の実験期間を設けて、公道に自動運転機能を備えたバスを走らせてきた。

 緊急時などに操作する運転手を乗せて技術の検証などを進めてきたが、通算5回目となる実験中だった今年1月、坂道でバスが自動加速した弾みで乗客が座席から滑り落ちる事故が発生。実験を即日中止した。

 事故を踏まえ、京阪バスは登坂時の目標速度を引き下げたり、車内の手すりを増やしたりする対策を市に提案。対策が有効かを検証するためにも実験を再開させてほしいと、文書や口頭で市に要望してきた。

 一方、大津市の佐藤健司市長は4月下旬の定例会見で実験について問われ、「現時点で6回目は予定していない」と発言。「実験の積み重ねで課題も明らかとなり、実験で得られるものは得たと考えている。今後は本格運行に向けて事業者(京阪バス)が主体的に考えていく段階だ」とした。

 京阪バスの鈴木一也社長は「再開できない原因が1月の事故で『この部分の対策が必要』という指摘があるならば対応策も取れるが、再開を拒む理由を言ってもらえない」と不信感を口にする。「けがをした乗客には深くおわびしたい」としつつ、実験にリスクが伴うことは4年前の実験開始段階で市側と共有できていたはずだとする。

 国は25年度までに無人運転の移動サービスを全国50カ所ほどで展開する目標を掲げており、各地で実験が続けられている。公道での実験を行うためには国や警察、学識者などを交えた協力態勢が不可欠で、京阪バスはその態勢ができている大津市との実験継続を希望する一方、「大阪市や京都市とも水面下で話し合いを進めている」(鈴木社長)と、他市での実験も視野に入れる。

 大津での実験に助言を行う「市自動運転実用化プロジェクト会議」の副座長を務める須田義大・東京大教授(車両工学)は「大津市は実験を通して多くの知見を持っており、全国をリードする立場の自治体だ。実験には国の税金も使われている。社会的責任を果たす上でもこれからも続けてほしい」と話している。

© 株式会社京都新聞社