社説:防衛財源法の成立 安全保障の土台になり得ぬ

 これで日本の安全保障の土台が整ったとは到底言えまい。多くの疑問が渦巻き、国民の不安はかえって高まる一方だ。

 今国会の焦点である防衛財源確保の特別措置法が与党などの賛成多数で成立した。だが、政府が示した財源の4本柱は、いずれも具体的な根拠があいまいなままである。

 本年度から5年間の防衛費の総額を43兆円とし、2027年度に国内総生産(GDP)比2%まで「倍増」させる計画だ。歴代政権が維持してきた1%程度を大きく踏み越える歴史的な増額となる。

 にもかかわらず、国会で議論は深まらなかった。防衛力を大幅に増強することの必要性と効果、それに伴うリスクがほとんど語られていない。

 岸田文雄首相は「丁寧な説明」どころか、通り一遍の政府見解を繰り返した。「手の内を見せられない」と言えば済むと思っているかのようだった。

 4本柱のうち、防衛力強化資金として積み立てる税外収入は、国有資産の売却といった一度きりの手段が主体で、先行きは見通せない。

 予算の使い残しである決算剰余金は、恒常的な防衛財源とするには不測の要素が多く、場当たりに過ぎる。歳出改革も抽象的で実現性が疑わしい。

 唯一の安定財源となり得る増税は法律に盛り込んでいない。政府は「24年以降」としていた実施時期を「25年以降」へ先延ばし可能との立場で、さらに不透明感が増した。

 「財源が不安定と海外から思われること自体が安全保障上のリスクとなる」などと野党各党が反対したのはもっともだ。

 結局は国債発行という形で将来世代にツケが回りかねない。借金による軍事増強が戦禍を広げ、暮らしを破壊した先の大戦の教訓を忘れてはならない。

 そもそも岸田政権がGDP比2%という「規模ありき」で突き進んだ矛盾にほかならない。

 ロシアのウクライナ侵攻で国民の不安は高まった。中国や北朝鮮の軍備拡張も踏まえ、政府はことあるごとに「戦後最も厳しく複雑な安保環境に直面している」と強調する。

 だがそれに乗じるように、現憲法下で持ってこなかった「敵基地攻撃能力」(反撃能力)保有を打ち出し、専守防衛の議論もなし崩しにした感が強い。

 防衛費は米国、中国に次ぎ、ドイツと並ぶ世界3位の規模になる。

 「抑止力」を掲げて戦力を増強しても、他国との軍拡競争をエスカレートさせ、さらに国民の負担を膨らませて衝突の危険性を高めることになりかねない。明らかに日本の身の丈を超えた増額が本当に必要なのか。

 持つべき防衛力とそのための負担の在り方について根本から議論をやり直し、広く国民の合意形成に努めるべきだ。

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