神戸の里山で学ぶ藍那小、閉校危機乗り越え150周年 自然と共生、強まる絆「学校全体が大家族」

陸上大会の目玉「一輪車リレー」では、スタート地点で上級生が下級生をしっかりサポートしていた=いずれも神戸市北区山田町藍那

 神戸・六甲山系の自然に囲まれた藍那小学校(神戸市北区山田町)が創立150周年を迎えた。一時は児童数が9人まで減り閉校の危機に立ったが、地域の存続を願う声が実り、11年前に小規模特認校として再出発。現在は市内各地から34人が通う。少人数ならではの学年交流、地域に根ざした行事を通し、懐かしい教育の姿を再現している。(津谷治英) ### ■保護者らが2年間かけ存続を議論

 新緑の木々が太陽の日に映える。神戸の中心市街地から電車を乗り継ぎ約30分。藍那小学校は神戸電鉄・藍那駅から徒歩8分の山間部にある。昭和に建てられた木造校舎も残る。

 明治6(1873)年、寺子屋跡に創設された。太平洋戦争末期の45年には学童疎開を受け入れ、最多154人が学んだ記録もある。

 一方で戦後は過疎化の波に勝てず、2009年からは児童数が10人台に。統廃合の危機感を抱いた保護者らが08年、「藍那小学校の将来を考える委員会」を立ち上げ存続を模索。2年間で60回に及ぶ議論を重ね、アンケートも実施した。

 同校卒業生で長女、長男を通わせた同委員会メンバーだった前田聡史(としふみ)さん(50)は、「小学校がなくなったら村はもっと過疎化する。何とかしたいとの思いが地域を団結させた」と振り返る。 ### ■里山の自然体験が特色、全児童が校区外

 委員会は灘区の六甲山小が校区外児童を受け入れる小規模特認校である点に着眼。学校所有の里山での自然体験、地域と連携した行事など特色ある学校運営を市に提案し認可を受けた。

 現在は全児童が校区外。同じ地域に住む1~6年生が最寄り駅で待ち合わせて集団登校し、学年を超えて絆を強める。運動会やもちつき大会といった行事は児童らが地域各戸を回って、直接招待状を手渡す。田中秀滋校長(57)は「学校全体が大家族。上級生は下級生の世話をする慣習が自然と身に付き、思いやりの心が育つ」と目を細める。 ### ■陸上大会に登山…体力は全国平均上回る

 5月の陸上大会はその特徴が際立った。目玉は一輪車リレー。市内でも珍しい競技で、全学年でチーム編成し、バトン代わりの小さな輪を手渡しながらトラックを周回する。児童によって習熟度に差はあるが、上級生はスタート地点で下級生の手をとってサポート。各自が自分のペースで「完走」した。

 年4回の陸上大会に加え、登山や田植えと身体を動かす授業が多く、同校児童の体力測定値は全国平均を上回る。廊下には網も並ぶ。休み時間に虫を追って山林を走り回る。自然と共生しながら五感を養う。

 同市西区の女性(49)は、2年生の三男(7)が通う。親子で学校を見学して魅力を感じ、兵庫県三木市から引っ越して入学した。器用に一輪車を操る息子を見て、「入学当初は乗れなかったが、高学年の子どもが丁寧に教えてくれたおかげ」と感謝する。三男は「毎日練習したかいがあった。学校は面白い。将来は虫博士になりたい」と満足そうだった。

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