神戸・三宮の「ガリバートンネル」 戦災や震災逃れた隠れた名所、駅前再整備で撤去? SNSに心配の声後絶たず

「ガリバートンネル」と呼ばれる地下道連絡口「A14」。戦前からの風貌を今に残している=神戸市中央区雲井通8

 メガホンのような丸いトンネル形を見れば、気付く人は多いだろう。そう、あの「ひみつ道具」だ。神戸の玄関口、JR三ノ宮駅近くにあって、古めかしい不思議な建造物は、隠れたまちの名所の一つになっている。しかし、神戸新聞の双方向報道スクープラボに、ある不安の声が寄せられた。周辺は駅前再整備で変化がめまぐるしく「撤去されないか心配です」と-。では、その過去、未来を調べてみよう。(長嶺麻子)

 それは駅前の三宮交差点から東約100メートルの歩道上にある。近年は交流サイト(SNS)などを通じて話題になり、記念写真を撮りに来る人たちが引きも切らない。

 ちまたでは「ガリバートンネル」と呼ばれる。人気漫画「ドラえもん」に登場するひみつ道具の一つで、両端の入り口の大きさが極端に違い、大きい方から小さい方に出ると体が小さくなり、逆に入ると元に戻ったり巨大化したりする。

 正式名称は、地下道連絡口「A14」だ。地表から中に入ると、人がぎりぎりすれ違えるかどうかの狭い階段があり、異世界にいざなわれるような感覚になる。そして降り立つのは、三ノ宮駅とさんちか「味ののれん街」をつなぐ地下通路。

 現実には異世界ではなく、神戸の「味世界」への入り口なのだ。

   ◇   ◇

 神戸市によると、さかのぼること90年前の1933(昭和8)年には既にあったという。まさに阪神電鉄三宮駅が地下化され、そごう神戸店(現・神戸阪急)が現在の場所に開店した年だ。

 元々は全部で三つはあったようだ。三ノ宮駅南側を東西に走る「中央幹線」の北側、中央、南側に設置され、路面を走る神戸市電への乗り降りのため、人々が地下道を通って往来するのに利用していた。

 そのままタイムマシンに乗った気分で時を進んでみると、1938(昭和13)、阪神大水害の被害を伝える本紙記事でも存在を確認できた。濁流にのみ込まれる三宮交差点の向こう側に、小さく写り込んでいる。

 さらに55(昭和30)年ごろの写真には、神戸新聞会館(現・ミント神戸)を背に、A14とは別の二つが見事に収まっている。

 しかし、市電の路線廃止などに伴い、いつしかガリバートンネルは一つだけになってしまった。

   ◇   ◇

 時を経て再び現代。

 一帯では神戸三宮阪急ビルが2021年春に開業し、さんちかのリニューアル工事、新駅ビル工事と、駅前再整備事業が本格稼働している。

 閉鎖した2カ所の地下入り口は鉄扉で封鎖されており、かつて階段があった痕跡をうかがわせる。

 そこで気になるA14の未来を神戸市に聞くと、こんな答えが返ってきた。

 「新駅ビルの開発や歩行者デッキなどを整備するため、現状の計画では今年11月には出入り口を閉鎖します。その後、撤去することになるかと…」

 阪神大水害、神戸空襲、阪神・淡路大震災をもかいくぐってきたガリバートンネル。SNS上では「もう消えてしまうのか?」「これで見納めか」などと心配する投稿が後を絶たない。

 神戸市中央区に住む男性会社員(48)は「デザインもハイカラなトンネル。神戸には意外に古いものが残っていないので、できれば壊さないでほしい」との声を本紙に寄せた。

 この記事は神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」に寄せられた情報を基に取材しました。

© 株式会社神戸新聞社