老舗ランドセルメーカー「土屋鞄」職人 長崎・大村出身の村﨑さん 0.1ミリの違い 試行錯誤

土屋鞄製造所の出張店舗で、ランドセルを手にする村﨑さん=長崎市内

 機能性とデザイン性を兼ね備えた製品で人気の老舗ランドセルメーカー「土屋鞄(かばん)製造所」(東京)で、長崎県大村市出身の職人、村﨑孔明さん(36)が奮闘している。ものづくりの仕事にあこがれ9年前に入社。「まだまだ一人前とは言えない。覚えることの連続で、日々勉強している」と技術を磨く。
 物心ついた時から、ものを作るのが好きだった。手先が器用だった祖父(故人)の影響が大きい。釣りざおにおもちゃ、小屋に至るまでさまざまなものをゼロから作り出す姿にあこがれた。いつしか自らも釣り用ルアーや財布などを作るようになっていた。
 県外の大学に進学後、釣り具の販売卸会社に就職。革製品の工房が多い神戸市に住んだ。お気に入りの靴を探し、工房を訪ねたり、ワークショップに参加したりするうちに「ものづくりを仕事にしたい」という気持ちが高まった。知り合った靴職人に相談すると「厳しいけど、やりがいがあるよ」と背中を押され一念発起した。かばんメーカーを中心に転職先を探すうち、土屋鞄の丁寧な仕事にほれ込み、門をたたいた。
 同社は1965年創業。手仕事にこだわったランドセルを累計90万個以上販売してきた。東京、長野の三つの工房に約200人の職人を抱える。ランドセル1個に使われるパーツは150以上。50人以上の職人が300を超える工程を経て完成させる。
 村﨑さんは入社後、ランドセル製造の「まとめ班」に配属。各班から集まったパーツを組み立て、仕上げのミシンがけをする最終工程を担った。「失敗すると、これまでの作業が無駄になる。プレッシャーとやりがいの両方があった」と振り返る。失敗を繰り返しながら、3年間で着実に腕を上げた。その後、ふた部分を作る「カブセ」、表面のつや出しや色味に関わる「コバ液」の担当などを経験。現在はランドセルから離れ、成人向けかばんの製造部門に所属する。

ランドセル製造の作業をする村﨑さん。一つのランドセルに50人以上の職人が関わる(土屋鞄製造所提供)

 目標は、新商品などを試作するサンプル職人になること。確かな技術と豊富な経験、幅広い知識が必要で、ベテランに教わりながら日々学んでいる。「0.1ミリ単位の違いで、仕上がりが全く変わる。試行錯誤の連続だけど、そういうのがすごく面白い」と熱っぽく語る。
 シンプルかつ複雑-。職人の仕事に、そんな相反する印象を持っている。「完成品というゴールは決まっているけど、そこに至るまでの道のりは何通りもある。正解があるようで、ないような」。業界に飛び込んで、もうすぐ10年。あこがれだったものづくりの世界は、まだまだ広く、深い。

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