留学先で平和絵画 長崎の高校生が提案、各国の学生らと共同制作 「キッズゲルニカ」出品へ

田中さんらが留学先のアイルランドで5月に完成させた「NO WAR」

 毎年8月、長崎県長崎市で子どもたちが描いた大型の平和絵画を展示している「キッズゲルニカ」に今夏、西彼時津町の高校生、田中音色(ねね)さん(17)が5月までのアイルランド留学中、各国の留学生らと一緒に描いた「NO WAR」を出品する。アートを通じた交流を目指し、留学先の学校で制作を提案。国同士が戦争状態にあるウクライナ、ロシアからの留学生も参加し、5月に完成した。
 小学生の頃から絵画教室に通い、「アイデアを出し合ったり、一緒に描くのが好きだった」と言う田中さん。海外留学は以前からの念願で、1年間の留学が可能な福岡市の私立高に進学。2年時の昨年9月から5月まで、アイルランドの首都ダブリンにある中高一貫の私立女子校の高校1年クラスで学んだ。
 同国の高校1年は、履修科目の中で社会貢献などに取り組むことができる。田中さんはこの仕組みを使って交流活動をしたいと考え、他国からの留学生も多い同校を選択。当初は長崎の若者と同級生らのオンライン交流を企画したが、諸事情で実現しなかった。
 既に2月で、断念するか迷ったが、思い付いたのがキッズゲルニカだった。ピカソの反戦壁画「ゲルニカ」と同じ大きさの大型キャンバスに描かれた平和絵画を展示する国際プロジェクト。長崎では市民グループ「長崎親善人形の会(瓊子の会)」(山下昭子会長)が主催している。以前、山下会長から概要を聞いたことがあり「アートで人とつながる楽しさが印象に残っていた」と振り返る。
 4月に山下会長と連絡を取り協力を要請。キャンバスを同会が送付し、絵の具などの費用はクラウドファンディング(CF)で捻出することにした。学校側も後押しし、全校集会で制作を呼びかけると15人ほどが集まった。親しくなった香港からの同級生やアイルランドの生徒らも加わった。
 話し合いでテーマを「NO WAR」と決め、5班に分かれて五つの文字と背景画を分担して描くことに。ウクライナとロシアの留学生2人は「言葉が似ているから」と仲が良かった。2人は同じ班で青と黄色のウクライナ国旗を題材に「R」の部分を描いた。
 制作を通じて各国の生徒と触れ合った。「ウクライナの子は『危なくて帰れない』と話していた。ニュースでしか知らない国際情勢を肌で感じた。でも、難しく考えなくても意外と認め合える、理解し合えるとも実感した」と話す。

「作品が長崎で展示されるのが楽しみ」と話す田中さん=長崎新聞社

 5月上旬から放課後に毎日描き、完成したのは留学終了1日前の同23日。翌日の終了式で作品を披露した。「間に合うか心配だったけど完成してうれしかった。『一生懸命描いた絵が長崎に展示されたよ』とみんなに報告するのが楽しみ」と笑顔。
 山下会長は「高校生が海外で自発的にキッズゲルニカを立ち上げてくれたのは初めてで驚いた。大きな希望をもらった」と話した。「平和の祈りキッズゲルニカinながさき~国際子ども平和壁画展」は8月6~31日、長崎市の爆心地公園そばの下の川で。
 田中さんのCF「アイルランドキッズゲルニカプロジェクト」は運営サイト「CAMPFIRE」で7月9日まで。

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