映像制作から転身、農業へ「観光客向け、失敗たくさん見てきた」地元が喜ぶビール原料栽培

ホップの生育具合を確認する武山さん(亀岡市西別院町)

 つるの下に実る若いホップの生育を確かめる。武山曉( さとし)さん(49)=京都府亀岡市曽我部町=が見つめる先には「地元で育てた原料でビールを作り、地域で消費する」将来を思い描いている。「観光客向けに加工品や酒米などを作って失敗したケースをたくさん見てきた。まずは地元が喜ぶ物を作りたい」と力を込める。

 ホップ作りを始めたのは2019年。亀岡にビール麦栽培の歴史があることも踏まえ、新たな農地活用を模索する中、紹介された西別院町の農地で挑戦を開始。今年は初めて希少なビール麦「ゴールデンメロン」の試験栽培も行い、一歩ずつ取り組みを広げている。

 生まれは東京都武蔵野市。日本大芸術学部で映像を学んだ後、フリーで映像制作をしながら、知人のつてで静岡の茶農家で働いてきた。茶の生産から加工、販売まで行う農家で「寝る場所も食事も、仕事も与えてくれるのに『来てくれてありがとう』と感謝されて。こんないいところはない」と農業が好きになった。一方、繁忙期の農作業手伝いで各地に赴く中、よそ者と地元農家がささいなことで対立する場面にも多く接し、「地域に迎え入れてもらって初めて農業はできる」と心底思うようになった。

 茶の仕事に本腰を入れた直後の11年に東日本大震災が発生。京都市出身の妻の求めもあり京都で就農を考え、13年に府から曽我部町春日部を紹介された。

 今では、春日部ファーム運営役員として農地のオペレーターも任され、中核的な人材となった。地域では現役農家が高齢化し、これからはその子ども世代が定年を迎え、地元に戻ってくる。「戻ってきた人たちが農地でやりたいことができるよう、つなぎ役になりたい」。目指すのは、農業を通じ「生きていて楽しくなるような地域」だ。

 自身の畑は千両ナスやタマネギがメインで、ホップやビール麦はまだ一部。ただ、手摘みしたホップは全量を京都・一乗寺ブリュワリー(京都市左京区)がビールに醸造し、市のふるさと納税返礼品にもなり手応えはある。「いつかは亀岡に醸造所やビアパブができるよう、ゆっくりと雰囲気を醸していきたい」

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