社説:国会閉会 懸念答えず強引に転換

 国民の懸念や疑問に答えず、大きな方針転換を進める岸田文雄首相の強引な姿勢が際立った。

 通常国会の閉会を受けた昨夕の記者会見で、岸田氏は経済成長と外交・安全保障を前進させたとの自負を語り、「国民の声を聞きながら決断する難しさを感じる日々だった」と振り返った。

 一体、どんな声を聞いたのか。首をかしげる国会対応だった。

 歴代政権が継承した方針を置き去りにし、不十分な説明で大転換をしたのは防衛と原発である。

 岸田政権は昨年末、防衛費を5年で「倍増」し、他国のミサイル拠点などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)を持つと閣議で決めた。そのための財源確保として増税を打ち出した。

 だが、国会に提出した財源確保法では肝心の増税に触れず、倍増の必要性や積算根拠、反撃能力が逆に日本を危険にさらす恐れなどを問われても、岸田氏は防衛機密を盾に答えをかわし続けた。

 全野党が反対したが、岸田氏は「いろんな動きがある」と衆院の解散権を誇示し、抵抗をけん制する形で採決に持ち込んだ。有権者の負託を受けた国会を軽視する傲慢(ごうまん)な政治手法というほかない。

 今なお収束しない東京電力福島第1原発の事故を教訓に、最長でも60年とした運転期間の制限を変え、長期利用への法改正も押し通した。「原発依存を可能な限り低減する」としてきた政府方針を、ウクライナ危機に乗じてなし崩しにしたとしか見えない。

 現状の問題に向き合わない態度は、入管難民法改正とマイナンバーカード法改正でも顕著だった。

 難民認定率が国際水準とかけ離れた低さなのに、申請が3回目以降なら送還可能になる。特定の人に認定再審査が偏るなど、国会で不備が明らかになったが、岸田氏は耳をふさいだようだ。重ねて、独立した審査機関を求めたい。

 トラブル続きのマイナカードは国民の信頼を失っている。「総点検」で済む次元ではない。来秋に健康保険証を廃止し、カードと一体化するのは中止すべきだ。

 言論・報道の自由を脅かしかねない放送法の解釈変更問題も、うやむやのままである。

 野党の責任も重い。当初は立憲民主党と日本維新の会が共闘していたが、後半は溝を深めた。それどころか維新は、LGBT理解増進法案の修正で多数の国民への配慮規定を入れて賛成するなど、人権意識が疑われる行動がみられた。なぜ巨大与党を利するのか。

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