弁護士が「投資詐欺だ」と感じても、裁判で勝つのが難しいのはなぜなのか?

投資詐欺の具体例を紹介した前回に続き、今回は投資詐欺にあったらどうすればいいのか、もしもに備えてどんな行動をしておくべきなのか、弁護士の視点でお伝えしていきます。

前回の具体例からも、結果として詐欺の被害を回復して金銭を回収することは難しいということはわかっていただけると思います。身を守るには、詐欺にあわないように予防することが一番なのですが、実際に被害が明らかになるまでは、詐欺かどうかわからない、ということもあります。もしもに備え、実際の裁判例でどんな判断をしたのかを参考にしながら、どういった情報を保管しておくべきなのか、ということも紹介していきたいと思います。


詐欺だと思ったらどうすればいいの

まず「騙された!」と思ったときは、迷わずに警察や弁護士に相談してください。とはいえ、投資というのがそもそも必ず儲かるものではなく、損したり得したりするものですから、損しただけで直ちに詐欺だと判断されるとは限りません。

警察や弁護士に相談する際は、投資をするまでの経緯や履歴、勧誘してきた相手の情報を丁寧に説明して、判断を仰いでください。この時、余裕があれば時系列で、どんな時にどんな言葉で勧誘されたのか、という事情だけをまとめていただけるとスムーズです。

警察や弁護士は、「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」(振り込め詐欺救済法)に基づき、詐欺に利用された可能性が高い銀行口座の取引を停止させる手続きを取ることがあります。これは必ずしも成功するとは限りませんが、振り込んだ金銭を犯人が引き出すことを止めることができますから、そこから幾ばくかの金銭の回収をすることが期待できるようになります。

警察はこのほかに、刑事事件として捜査をする場合があります。警察が捜査を行えば、相手方が消してしまった履歴が復活したり、SNSのアカウント情報から、やり取りをしていた本人の情報を突き止めたりすることが可能です。この情報をもとに、警察は犯人を逮捕し、起訴して、犯人は裁判によって処罰されることになります。

弁護士は民事事件として、詐欺に関係した人物を調査し、和解交渉をしたり不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起したりすることが考えられます。訴訟を提起したり、和解交渉をするためには、相手と連絡が取れることが必要になりますが、SNSの連絡先しか知らなかった場合、相手がアカウントを消してしまうとお手上げになってしまうことが多いです。

詐欺師は事情を熟知していますから、逃げ切れるような手段でしか連絡を取っていないことが多いです。詐欺かもしれない、と一瞬でも疑いを感じた際は、確信がもてなくてもできるだけ速やかに警察や弁護士に相談してください。弁護士は、お住まいの都道府県の弁護士会や消費生活センターに相談いただくと、専門性の高い弁護士が相談担当をしている法律相談などを案内されると思います。

実際の判例で詐欺の証明に利用された事情

弁護士の感覚で、「これは投資詐欺だな」と感じていても、実際に損害賠償請求の裁判で勝つのは難しいです。

その理由として、そもそも投資自体が必ず儲かるということはなく、損をする場合もあるからです。そして、投資に用いたお金が元本割れすることも当然ありえます。ですから、「損をした」という事実だけをもって詐欺である、ということにはなりません。投資詐欺と認められるためには、相手が法律上の「不法行為」に該当する行為をしたと、被害者のほうが証明しなければいけません。しかし、そのための証拠が乏しく、非常に苦戦することが多いです。

私が実際に行った裁判で参考にした判例『東京地判平30.12.19(平成29年(ワ)第19512号事件)』を用いて、裁判所がどういう理由で不法行為を認めたかを紹介したいと思います。

事案の概要

原告は、被告から、AというSNSサービスが発行したポイントを購入して、購入したポイントを用いて広告権を購入すると、それによって発行されるオンライン電子クーポンが時間の経過と共に単価が上昇し、約2倍になったところで分割され、会社は年3回ないし年4回の分割を目標としている旨の記載がされた資料や、195万3,000円の広告権を購入すれば4回転目で2,030万4,000円、5回転目で4,060万8,000円となる旨の記載がされた使用や、6ヵ月間でポイントを8回売却した場合の売却益として123万4,200円等の記載がされた資料を用いて、投資をすれば必ず儲かると勧誘された。

さらに、原告は被告から、Bという別の投資についても、元本が保証され、高配当を期待できると説明をして投資するよう勧誘された。原告は、被告のAとBの2つの投資の説明を信じ、被告に対し金銭を拠出した。

しかし、その後原告が被告に対して、Bに投資した資金の返還を求めたが、被告から原告に対して資金が返還されることはなかった。その後、原告は、被告から数万円の支払いを受けたのを最後に、被告と連絡がとれなくなり、Aの投資のために利用していたアプリ等へログインすることができなくなった。

判決の意味するところ

この事案について、判決の概要は下記になります。

(1)投資により利益が得られることのみを強調し、なぜ利益があがるのか、その仕組みが不明である資料を用いて投資の仕組みを説明した

(2)原告が投資の仕組みや資産的な裏付けが不明で経営的な問題や技術上の問題が生じた場合における保護も不明瞭であること等の危険性を知っていれば、原告は金銭を拠出しなかったと考えられる

(3)被告は、これらの重要な事実を隠しつつ、専ら利益を得られる可能性を強調して勧誘した者と認められるから、被告による欺罔行為が肯定される

(4)その結果、原告は短期間で高額の見返りを受領できると誤信して被告の指定する口座に現金を送金したから、金銭的損害が認められ、不法行為の成立を肯定することができる

(5)被告が、自らの投資の態様や投資対象の仕組み、運用の状況等について十分に理解しておらず、その裏付けの確認も十分ではなかったにもかかわらず、原告に対して金銭を拠出することを勧誘し、原告に安定的に相当額の収益を得ることができると誤信させて被告に金銭を交付させており、不法行為が成立する

この判例は、どういうことを言っているのでしょうか?

事案の概要から、原告(投資をした人)が、被告(原告に投資話を持ち掛けてきた勧誘者)の行為が不法行為にあたるとして、投資のために渡した金銭相当額の損害が発生したとして損害賠償請求をしていることが分かります。裁判所は原告に対して、被告がどういう勧誘をしていたかということに着目し、その行為が不法行為に該当するかを判断しています。判断にあたって裁判所が指摘しているのは以下3項目で、被告の勧誘行為が不法行為に該当すると判断しました。

  • 殊更に利益が得られると強調していたこと、利益があがる仕組みが分からない資料をしめしていたこと
  • 投資の危険性がきちんと説明されていれば、原告は投資しなかったと考えられること
  • 原告は、被告に対して、あえて投資の危険性を隠し、専ら利益が得られることがけを強調したこと

このことから、被害にあったのではないかと弁護士に相談する場合、どういった勧誘をうけたのか、ということが重要視されることがわかります。示された資料などがあれば、そこからもリスクについての説明がないことを客観的に証明していくことができるとわかります。メールなどでの説明のやりとりや、ネットで紹介されている投資の仕組みの説明などを証拠として保存しておくことの大切さがわかります。

もちろん、詐欺師も失敗から学ぶので、後にメールのやりとりや、説明のための資料が残らないように工夫をしてくるでしょうから、相手が消す行動をとる、、つまり、まだ騙されていると相手が誤解している間に、いち早くスクリーンショットなどを利用して、証拠を残しておくことがとても重要です。

もう少し、判決内容を検討していきましょう。損害賠償請求をするためには、金銭的な損失の発生が必要になりますので、(4)では金銭的な損失が発生していることを確認しています。

そして(5)では、勧誘者が「自分も同じ対象に投資していて、どんな仕組みなのかもよくわかっておらず同じように損しており、自分だって被害者なんです」といった言い訳をした場合に、その言い訳は通用しないですよ、という判断を示しています。判決は、自分でもよく理解できていないようなものを、他人に対して安定的に相当額の利益を得られる、などと伝えて勧誘すること自体が不法行為である、と言っています。

勧誘者が、「自分も被害者でよくわかっていなくて、騙すつもりはなかったんです」といった旨の発言をすることはよくあります。そういう話を事前にされていると、被害者の方は不安になっていたり、仲間意識を持ってしまうことがありますが、この判決から、そういった心配や配慮はいらない、ということが分かります。

勧誘者の言葉に惑わされずに、警察や弁護士などにきちんと相談してください。相談によって、必ずしも紹介した判例のように、善い判断を得られるとは限りませんが、相談いただかなければ、善い判断を得る可能性を作り出すこともできません。

なにより、自分が詐欺にあったとはっきり明言されないと、なかなか詐欺にあったことを認められず、不思議なことに別の投資話に投資を繰り返してしまう、ということもあります。そういう意味でも、適切な窓口に相談することはとても大切です。


投資詐欺について、具体例を用いてじっくり書かせていただきました。大切なことは、うまい話には裏がある、ということを忘れてはいけないことだと思います。

ご自身に心配がなくても、ご両親や友人が最近投資で大きく儲けた、と喜んでいるような時は、ちょっと今回の記事のことを思い出していただき、信頼できる投資なのか、一緒に確認しあうことも大切だと思います。

残念ながら、投資詐欺では泣き寝入りになっているケースも数多くあります。裏を返せば、それだけ楽して儲けている悪い人たちがたくさんいる、ということです。残念ながら、楽して儲かるのであれば、悪いことをする人は減らずに増えていきますから、一人一人が気を付けて、悪い人たちに得をさせない、という意識を持つことでしか、投資詐欺の被害が減らないというのが現状ではないでしょうか。

少しでも不安に思うことがあった方は、警察や弁護士に相談してください。弁護士は、お住まいの都道府県の弁護士会や消費生活センターに相談いただくと、専門性の高い弁護士が相談担当をしている法律相談などを案内されると思います。

今回の記事が、投資詐欺の被害者減少につながることを心より期待しております。

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