「二度と我慢はしない」妹が12万人に1人の難病 きょうだい児の挑戦

病気や障がいのある兄弟・姉妹がいる子ども=きょうだい児。愛媛県松山市に住む中山穂乃果さん(15)も、その1人です。

妹の結衣花さん(12)は生まれつき代謝に異常があり、3歳で胃ろうの手術を受けました。国内で12万人に1人と報告される難病「メチルマロン酸血症」と闘っています。幼い頃は風邪で命を落とす恐れもあったため、入退院を繰り返す日々が続きました。

母・理江さん
「色んな我慢も多くしてしまってたのかなって…。どうしても結衣花の方にかかりっきりだったので『もう私なんか生まれてこんかったら良いんだろ』みたいな感じで、半泣きで私に言ってきたことがあって」
記者
「その時は寂しかった?」
穂乃果さん
「寂しかったのかな」

妹のことを思うあまり、知らず知らずのうちに感情を飲み込んでいた穂乃果さん。悩み葛藤しながら、少しずつ夢や目標と向き合えるようになったといいます。

■ミュージカルが大好きな穂乃果さん 病と向き合う子どもたちに向け…

ずっとミュージカルが大好きだった穂乃果さんに、チャンスが訪れました。本格的な歌のレッスンです。

きっかけとなったのは、横浜を拠点に劇団四季や宝塚歌劇団出身の俳優が中心となり立ち上げた「心魂(こころだま)プロジェクト」。国内外の劇場や病院に赴いたり、オンライン公演を開いたりして、病と向き合う子どもとその家族にパフォーマンスを届けていて、闘病中の子どもやきょうだいも「キッズ団」として活動しています。

穂乃果さんは、妹と一緒にオンライン公演を見た直後「キッズ団に参加したい」と、代表の寺田さんにメッセージを送りました。

穂乃果さん
「歌はやったことないです。特に習ってたわけでもなく、これからやるって感じです」

オンラインレッスンには、仙台に住むきょうだい児・髙野恵花(けいか)さん(16)も、参加しました。2人が挑戦するのは、ミュージカル『マチルダ』の「Revoluting Children」。学校や家庭で我慢を強いられてきた子どもたちが、反乱を起こす物語です。

心魂プロジェクト 歌講師 岩本潤子さん
「すごいチャレンジしてるよ、穂乃果ちゃん。心魂のきょうだい児でやる1曲目がこれって、ちょっとすごいと思う」

オンラインレッスンの2週間後、穂乃果さんの姿は空港にありました。

■「二度と我慢はしない」作品に思いを重ねて

穂乃果さん
「結衣ちゃん、ねぇねはお泊りやけんね?」
妹・結衣花さん
「うん」
穂乃果さん
「ねぇね、明日の夜もあさっての夜もおらんのよ?ねぇねは寂しいって言ってほしい」

心魂プロジェクトのメンバーが招待した、神奈川での3泊4日の“合宿”。仙台の恵花さんも一緒です。

“二度と我慢はしない!二度と諦めない!”(「Revoluting Children」より)

来年3月、横浜で行われる心魂プロジェクトの公演で一緒にステージに立つ仲間を募るため、2人のパフォーマンス作品を動画に収め、7月の公演で上映することになったのです。

合宿最終日、これまで抱えてきた思いを作品に重ねます。

心魂プロジェクト 共同代表 有永美奈子さん
「何をやりたいの?」
穂乃果さん
「今まで我慢していた分…自分の思いを伝えて、我慢せずにやりたい」
有永さん
「それを誰に伝えたい?」
穂乃果さん
「きょうだい児」

心魂プロジェクト 共同代表 寺田真実さん
「15年って言っても、もっと長い人生を生きてきたようないろんな葛藤があったと思うんですね。それで引いちゃうことだってできるんだけど、でもそこで行くぞってやれるというのは本当にすごい。だからこの選曲には、きょうだい児の気持ちと合ってくれたらいいなっていう願いがあって、それを本当に2人が闘ってチャレンジしてくれました」

最後に収録したのは、2人からのメッセージ。素直な気持ちが溢れました。

■「1人じゃない」誰かの背中を押す存在に

きょうだい児・髙野恵花さん
「私もお姉ちゃんがいて、身体も動かせないし喋れないし体調も崩しやすい時期の方が多いから、風邪をひいたときに『お母さんかまって』って言いたくても言えなかったし。そもそも風邪を家に持ち込んだら、自分を責めることの方が多くて」

穂乃果さん
「私はやりたくてもやれなかったこともあるし、隠してたけど我慢してきたこともあるけど、病気のきょうだいがいることで、一緒に出掛けられるとか喋れているとか、苦労してきたからこそ嬉しいと思える。いろんな思いがあって、でも誰が悪いわけじゃないからどうしようもないけど、こうやって支えてくれる人がいっぱいいて、出会うことがすごく大切だなって思います」

心魂プロジェクト 共同代表 寺田真実さん
「今回のこの3日間は、あなたたちにとって何点でしたか?」
穂乃果さん・恵花さん
「100点満点」
寺田さん
「私たちから見たら、今までの全部ひっくるめての100点満点だと思うんだよね。甘えたいじゃん。『私がそう言ったらダメだもんな』って思ってやってきたんだよね。それでも、あなたたちはまっすぐ来た。私たちから見たら本当にすごいことだなと思う」

2人はきっと、誰かの背中を押す存在になる。心魂プロジェクトのメンバーの誰もが、そう信じています。

心魂プロジェクト 共同代表 有永美奈子さん
「苦しいことに目を背けた方が楽なことってあるし、誰かのせいにして怒りをぶつけた方が楽だと思うんですよね。でも、それを彼女たちはしない。2人がみんなから受け入れられるとは思ってないです。眩しくて見たくないっていう考え方もある。ただ、憧れてほしい」

羽田空港まで見送りに来た有永さんは、穂乃果さんにこんな言葉を掛けました。

心魂プロジェクト 共同代表 有永美奈子さん
「弱音吐いていいよ。いつも強くなきゃいけないんじゃないからね。何かあったら連絡ください」

来年3月、きょうだい児の仲間と横浜のステージに立つことが、穂乃果さんの今の目標です。

穂乃果さん
「1人じゃないんだなってあらためて思えたし、本当に必要だと思っているきょうだい児、病児に、パフォーマンスを届けたい。1人じゃないよっていうのを私がもらった分、誰かに渡せる存在になりたい

かけがえのない出会いが、彼女を支え続けます。

*************************************妹思いの穂乃果さんですが、「中には、病気のきょうだいを愛したくても、今はまだ愛せないきょうだい児がいることも知ってほしい」と話してくれました。

きょうだい児の問題は見過ごされがちですが、彼ら彼女たちの葛藤を知ることが、家族の問題社会の問題として捉える一歩になると感じました。

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