社説:農業基本法 持続的な生産、築き直せるか

 安定的な食料確保には、自らの足元を見つめ直すことからだろう。

 農業政策の方向性を決める「食料・農業・農村基本法」の改正に向け、農林水産省が中間とりまとめを公表した。

 不測の輸入停止などに備え、農産物の国産化を主眼に、平時から食料安全保障の体制を強化することが主な柱だ。来年の通常国会で、改正案の提出を目指すという。

 農業基盤の強化に軸足を置き、1999年に施行された現行法の初の改正である。

 この間、食料を巡る情勢は大きく変化した。ロシアによるウクライナ侵攻と新型コロナウイルス感染拡大による物流停滞や価格高騰、気候変動による不作など、食料確保が脅かされる事態が起きている。

 影響は身近なところにも及んでいる。京都府の丹波地域では、ウクライナ侵攻などを受け、畜産業の飼料価格が3年前と比べて倍近く跳ね上がり、飼料米の生産に力を入れ始めたところもある。

 国内における農業の担い手は、減少と高齢化が進んでいる。農業を主な仕事とする基幹的農業従事者は2000年の約240万人から22年にほぼ半減した。70歳以上が6割近くを占め、50代以下はわずか2割にとどまる。

 日本の食料自給率(カロリーベース)は21年度で38%と先進国で最低水準となっている。過度な輸入依存からの脱却の重要性が増す一方で、担い手の足腰は細っている。

 農水省では不測時の食料確保に関する指針があるが、具体的措置に対して法的根拠がなかった。今後、食料の供給確保のため、流通制限や農作物の増産指示などが可能な法制度の整備を検討するという。

 ただ、「安保」の名の下に統制を強めても、農作物は工業品のように一朝一夕で増やせるものでもない。法制度の必要性と実効性について、冷静に検討しなければならない。

 他にも海外依存の高い小麦や大豆、飼料作物などの国内生産を増やすと明記。適正な価格転嫁を進めるための仕組みを創設する。

 またトラック業界の人手不足に備えた食品輸送力の確保や買い物弱者対策、フードバンクや子ども食堂に多様な食料が提供できるよう仕組みの検討も列挙した。

 だが、踏み込んだ制度の具体化はこれからだ。場当たりのように補助金をばらまき、農業衰退を招いた従来の過ちを繰り返してはならない。

 先端技術を活用した省人化、効率的な「スマート農業」の推進はもとより、担い手の確保や育成、経営基盤の強化などに企業、大学、地域の力も集め、持続可能な生産につながる思い切った支援が求められる。

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