「将来的なまちづくりを考える取り組み」広がっています!地域で“生活の足”支える「コミュニティ・カーシェアリング」

静岡県富士宮市で、2023年4月から地域住民で1台の車を共同利用する「コミュニティ・カーシェアリング」の取り組みが始まった。地域には通院や買い物などで市街地まで移動するのに困難な高齢者も多く、足の確保が課題となっていた。コミュニティ・カーシェアリングは、地域で「生活の足」を支える新たな仕組みだ。

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コミュニティ・カーシェアリングで使用する車=富士宮市杉田

移動手段の選択肢広がる

静岡県富士宮市杉田地区で5月31日、地域に住む女性(81)がワクチン接種のため、自宅から接種会場までの移動でコミュニティ・カーシェアリングの車を利用した。「とても便利。来年、運転免許を自主返納する予定で、移動手段を悩んでいたところだったので、大変ありがたい」と喜ぶ。

運転手を務めた60代の男性はボランティアで、女性の自宅まで迎えに行き、目的地まで送り届けた。「頼ってもらえるとうれしい。いつか自分も乗せてもらう立場になるので、お互い様」と笑顔をみせる。

杉田地区を走るバスは、本数が少なく、バス停まで距離がある場合もあり、タクシーで市街地までいくと数千円かかるという。コミュニティ・カーシェアリングは、地域住民の移動手段の選択肢を広げている。

2023年4月から始動

富士宮市の杉田地区の一部で実施されているコミュニティ・カーシェアリングは、2022年に富士宮市の「地域づくりモデル事業」に応募し、テスト運行を経て、2023年4月から「杉田3・4区街づくり協議会」として正式に活動がスタートした。

宮城県石巻市の一般社団法人「日本カーシェアリング協会」から車を1台借り、地域住民の依頼に応じてボランティアの運転手が目的地まで送り迎えする仕組みだ。現在、会員は運転手も含めて、60代から90代のおよそ40人。月40回のペースで運行している。利用したい住民が協議会に日時を伝え、運転できる住民を調整する形だ。

ガソリンや車両維持費などに係る経費は、利用者がルールに基づいて分担する。利用者は、5キロまで500円、それ以降は1キロごとに100円だが、最終的には実際に係る経費で精算する。

運転をする人が利益を得ず、利用者が経費をルールに基づいて分担していれば住民互助による「自動車の共同使用」とみなされ、タクシーやレンタカー事業のように許可を得る必要がないという。

「単なる移動支援ではない」

「杉田3・4区街づくり協議会」の坂本英俊さん(72)は6年間、民生委員として地域の高齢者の支援などに携わり、移動手段の確保が課題だと痛感したという。2022年、コミュニティ・カーシェアリングを実現するために、地元企業を回ってスポンサーを6社集め、運転手を含めた会員の体制づくりも進めた。

車の利用に興味があるという人のもとに直接出向き、安心して使ってもらえるように仕組みや思いを丁寧に説明した。坂本さんの熱意によって活動の輪は広がり、ボランティアの運転手役に手を挙げる人も増えた。

地域住民がそれぞれできる範囲で役割を担いながら運営している。坂本さんは「この活動は単なる移動支援ではなく、地域の人同士の交流や将来的なまちづくりを考える取り組みだ」と意気込む。

【東日本大震災がきっかけ】

宮城県石巻市の一般社団法人「日本カーシェアリング協会」によると、コミュニティ・カーシェアリングは東日本大震災で仮設住宅の入居者らが寄付された車などを共同で使い始めたのがきっかけだという。協会の支援で、現在、全国の25地域に導入され、静岡県内では富士宮市で初めて実施された。

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