樹齢134年、明石公園のアベマキは見た 兵庫に確かな足跡、水生植物オオフサモも出会ったあの人は

樹齢134年と推定されるアベマキ。公園のシンボルツリーだ=県立明石公園

 NHKの連続テレビ小説「らんまん」のモデル、牧野富太郎(1862~1957年)。生涯を通じて植物分類学の研究に没頭し、兵庫県内では六甲山などに足跡を残したが、明石も訪れている。行動録に県立明石公園について「アベマキ多シ」と記され、オオフサモの標本も残る。牧野が目に留めた植物とは。県植物誌研究会、明石公園の自然を次世代につなぐ会の両代表を務める小林禧樹(とみき)さん(80)=明石市=と園内を巡った。(松本寿美子)

午前七時半神戸着。仝(どう)九時四十分神戸發(はつ)、明石行。濤館ニて昼食、明石の地少し平街 前淡路島ニ對(たい)ス其(その)間一里

 牧野富太郎植物採集行動録に明石が登場するのは、牧野31歳の1893年6月25日。ちょうど130年前だ。早朝に神戸に着き、明石を訪れる様子から始まる。

 明石の地、冬葵(ふゆあおい)自生し、又(また)マンテマ自生ス。メノマン子ングサ(メノマンネングサ)アリ。海岸の地ハマニンジンアリ。又所々ニウヰキャウ(ウイキョウ)自生ノ姿となれり。蘭ニ二種アリ共ニ多シ。カハラマツバ多し。肥大ニ成長セルモノアリ。今正ニ開花の候ナリ。

 「メノマンネングサね。在来種の多肉で、石垣に生えている」と小林さん。目を凝らすと、愛らしい小さな黄の多肉植物が石と石の間から伸びている。「日本海側は多いが瀬戸内では少ない。県版レッドデータブックCランク」という。

 公園(旧城地)あとニハアベマキ多シ。又シデザクラ実ヲ結ベリ。路石ニ二異品アリ、一ハ普通品、一ハ葉長クシテ葉裏ニ毛多し、ガマハ城濠(じょうごう)ニ寄り、今正ニ開花之候なリ。

 「アベマキは何百本もありますよ。中でもシンボル的なのは坤櫓(ひつじさるやぐら)北側の天守台にある巨樹。枝が空いっぱいに伸び、美しい樹形」と見上げる小林さん。

 ブナ科コナラ属の落葉樹。石垣に近く、県の樹木伐採事業で切られる予定だったが、小林さんらが見直しを訴え、守られた。また「シデザクラはないですね。牧野さんが書いているからには、当時はあったんでしょうが」と話す。

 ガマは園内の藤見池に生息する。水辺に生える多年草で、茎が直立に伸び、6~8月にはソーセージのような花穂を付ける。

 また、1921年に牧野が明石で採集したアリノトウグサ科の水生植物、オオフサモの標本が県立人と自然の博物館(三田市)に収められているという。

 小林さんは「牧野さんは明石のどこで採集したかを書いていないが、現在の分布状況から明石公園だろう」と話し、東の堀沿いのやぶへ。木陰の水辺にひっそりと群生していた。「繁殖力が強い外来種で除去するのは大変」と説明する。

 牧野は県花ノジギクなど1500種以上の植物に名前を付け、標本約40万点を収集したとされる。小林さんは「圧倒的な数の植物を解析し、命名した。独学から周囲にも支えられ、それらを調べられる力があったことがすごい」と話す。

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