【インドネシア】配車ゴジェックが二輪電動化[車両] 東南ア2国、EVのハブへ(11)

バッテリースワッピングステーションで交換作業を行うゴジェックの運転手。ゴジェックはジャカルタの一部地域で電動バイクを使用した配車サービス運用している(GoToグループ提供)

インドネシアで電気自動車(EV)のエコシステム構築を推進する主要プレーヤーの一社に、東南アジアで配車・配送サービスを手がけるゴジェックがある。新興企業から域内を代表する企業へ成長した同社は、2030年に二輪・四輪すべての車両をEVとする目標を掲げる。その中で電動バイクの生産・供給を担うのが、ゴジェックが出資するエレクトラムだ。同社は、ゴジェックとの実証試験から配車サービスには、スワップ(交換)式バッテリーの利用が最適だとの見解を示し、25年までに量産体制の構築を目指す。

ゴジェックは、21年に電子商取引(EC)大手トコペディアと経営統合して誕生したGoToグループを通じて、電動化計画の第1弾として年内に計5,000台のエレクトラム製バイクを投入することを公表している。エレクトラムの製品部門責任者のアンディー氏はNNAに対し、23年はパートナー企業の工場で製造したものを利用するが、24年にエレクトラムによる生産を開始し、25年に量産体制に入ることを計画していると明らかにした。23日には、西ジャワ州チカランの工業団地で電動バイク工場を着工。稼働当初の生産能力は、製造ライン1本当たり年25万台を見込む。

バリ州で5月に開催されたインドネシア、シンガポール、タイ3カ国のEV・バッテリー関連団体が主催する国際会議「ASEANバッテリー・アンド・EVテクノロジーカンファレンス(ABEVTC)」で登壇した、アンディー氏は、これまでの実証試験を基に得られたスワップ式バッテリーの利点を説明した。

具体的には、◇1日で100~150キロメートルを移動することもあるゴジェックの運転手の稼働時間を最大化できる点◇自宅の電力容量が1.3キロワットもしくはそれ以下と小さい場合でも、自宅での充電はあくまで補助的なため負担を小さくできる点◇バッテリー利用を定額制のサブスクリプションサービスにすることで、運転手の負担額を減らせる点◇特定地域に集中してバッテリー交換ステーションを整備することで充電に対する不安を解消できる点——などを挙げた。

アンディー氏はNNAに、電動バイクを利用したゴジェックの運転手からの反応は非常に良く、運転手らは新しい技術を受け入れる準備ができているとも語った。

現在、ゴジェックは首都ジャカルタ南部で電動バイクを利用した配車・配送サービスを開始しており、台湾の電動二輪車メーカーの睿能創意(ゴゴロ)や地場の「GESITS(グシッツ)」ブランドを展開するWIKAインダストリ・マヌファクトゥル(WIMA)との協業で製造されたエレクトラムのバイクも稼働している。ゴジェックは、電動バイクの利用地域を23年後半にも拡大させたい方針だ。

エレクトラムは、22年にバリ州で開催された20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、関係者などを対象に電動バイクによる送迎サービスを提供した(GoToグループ提供)

■出力を向上させ下位中価格帯に投入

アンディー氏は、エレクトラムが今後電動バイクを投入するに当たり、既存の市場では製品価格と性能が見合っておらず、消費者のニーズを満たせていない課題があるとの認識を示した。性能面では、バッテリー出力が1.5キロワット以下の他社製品が多く見られるが、実際には4キロワット以上の製品が必要とされているとの見解を示した。エレクトラムとしてはバッテリー性能を向上させつつ、下位中価格帯に投入したい考えを述べた。

エレクトラム製の電動バイクは当初、ゴジェックの配車サービス向けに供給するが、その後は、一般向けにも販売する計画だ。バッテリーの交換ステーションを他社と共同で利用することや、バッテリーをOEM(相手先ブランドによる生産)供給することも視野に入れている。バッテリー生産のサプライチェーン(供給網)における主要パートナーについては、現時点で詳細は明らかにできないとした。

■CO2排出量、配車・配送が75%占める

エレクトラムは、ゴジェックが炭坑事業などを手がけるTBSエネルギウタマと共同出資して21年に設立。電動バイクの生産、バッテリーパックの開発、バッテリー交換ステーションの開発・運営のほか、電動バイク購入時の融資など金融分野もカバーする計画だ。

GoToグループにおいて、エレクトラムは同グループが掲げる30年の3つのゼロ(「ゼロエミッション」「ゼロ廃棄物」「ゼロバリアー=多様性や包括的な社会経済成長の推進」)のうち、カーボンニュートラルを目指すゼロエミッションで重要な役割を果たすことが期待されている。同グループの活動に占める二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス(GHG)排出量のうち、配車・配送サービスが占める割合が大きく、かつ配車サービスで稼働する車両のうち、8割近くが二輪車であるためだ。

GoToグループの22年のデータでは、サービスを展開するインドネシア、シンガポール、ベトナムで約270万人が四輪車と二輪車の運転手として配車・配送サービスに従事している。

同グループのサステナビリティー報告書によれば、22年のスコープ1(燃料使用など自社が直接排出したGHG)とスコープ2(自社オフィスや倉庫での電力消費による間接的なGHG)、スコープ3(スコープ2以外の間接排出)の合計は、97万6,953トン(CO2換算)。スコープ3のうち、配車・配送サービスなどのゴジェックのモビリティーサービスは73万482トンと、全体の74.8%を占めた。

GoToグループは、車両の電動化のほか、海外を含めた全拠点のオフィスで再生可能エネルギーを利用することなどを取り組み事項として掲げているが、EVエコシステム構築の一端を担うエレクトラムの役割は、インドネシアがEVのハブ化や脱炭素社会に向かう上でも重要となりそうだ。

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