希少植物「ムラサキ」外来種と交雑か、京大が実態調査 古来から人気の染料

白い花を咲かせる日本のムラサキ(左)と、黄色がかった花のセイヨウムラサキ(右)=矢崎教授提供

 古来から染料として親しまれてきた希少植物「ムラサキ」について、京都大学などのグループが実態調査を始めた。自生が極めてまれという「幻」の植物だが、外来種との交雑が進んでいるとみられるためだ。調査を担う矢崎一史・生存圏研究所教授は「善意で行われた保存活動が交雑を広げる可能性もある。多くの人に関心を持ってもらうため、情報発信にも力を入れたい」としている。

 ムラサキは涼しい山地の草原に生える多年草。根にシコニンという色素を含み、鮮やかな紫色の染料として知られる。紫色は、聖徳太子が制定した「冠位十二階」の最上位で、当時、高貴な人々の装束作りに使われた。

 現在も高級染料として人気がある一方で、全国的に群生が見つかることはほとんどない。京都府のレッドリストでは「絶滅種」とされている。一部が大学の農園や農家などで育てられ、染料や薬用として用いられている。

 一方、外見が酷似する近縁種との交雑が問題となっている。

 府立植物園によると、詳細な年代は不明だが、日本には欧州原産のセイヨウムラサキが園芸用として導入されている。外見は似ているが、両種は花の色に違いがあり、またセイヨウムラサキは根に紫色の色素をほとんど持たない。

 矢崎教授によると、近年、両種の特徴が交ざった個体が見つかり始めたという。交雑種かどうかは、外見で判断するのが難しく、ゲノム解析が必要。さらに「どの遺伝子を持てば、純粋な日本のムラサキか」との基準づくりからスタートしなければならない段階という。矢崎教授らのグループは全国5カ所から生存株を集め、外来産とのゲノム比較を進めている。

 過去の文献には「1960年代にムラサキの復活運動でセイヨウムラサキの種を配布した」との記述もみられ、交雑問題の情報発信は急務だという。グループは現状を論文にまとめ、5月18日、国際学術誌にオンライン掲載された。矢崎教授は「農家と研究者、復活に取り組むNPOなどでつながりを深め、日本のムラサキを保護する機運をつくりたい」と話す。

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