社説:ロシアで反乱 あらわになった侵略の矛盾

 非道な侵略戦争の矛盾があらわになったといえよう。

 ロシアの民間軍事会社ワグネルが反乱を起こし、南部の軍管区司令部を制圧した。一時は首都モスクワの200キロ手前まで迫ったとされるが、ワグネル創設者のプリゴジン氏は進軍停止を表明した。

 プーチン大統領は「裏切りと反逆」と非難していたが、反乱収束を受けて刑事責任を問わない方針とされる。プリゴジン氏は隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介で、同国へ出国するという。事実上の亡命とみられる。

 早期の事態収拾で、ロシア国内での大規模な内戦は避けられた形である。だが、国際社会の批判を顧みずに侵略を続けてきたプーチン氏にとって、反乱を未然に抑え込むことができず、国内統治の揺らぎが露呈したのは間違いない。無謀な侵略をただちにやめるべきだ。

 プリゴジン氏は、プーチン氏との親交を後ろ盾に台頭した。設立したワグネルは、ロシアが軍事介入したシリアやアフリカなどで戦闘に雇い兵を送り込み、残虐行為を繰り返していたとされる。

 ウクライナ侵攻では、受刑者出身と軍経験者らの雇い兵を投入。約2万5千人の戦闘員を抱えるとされ、東部の激戦地バフムト制圧の中核を担った。

 プリゴジン氏はSNSを使った発信を繰り返し、複数ある民間軍事会社の中でも存在感を高めた。

 一方、戦局が停滞すると、同氏は弾薬が十分に供給されなかったなどとして、国防省幹部らを名指しで激しく非難。ワグネルを指揮下に置こうとする軍との確執が深まっていた。

 プーチン氏が反乱に目をつぶって収束させた背景には、ワグネルの民兵が政権や軍にとって都合のいい存在で、今後も利用価値があるとの判断が働いたのではないか。

 プリゴジン氏は反乱直前に動画を投稿し、「ウクライナと北大西洋条約機構(NATO)が仕掛けた戦争に対する防衛だ」とするプーチン氏の主張を真っ向から否定した。

 大義のない侵略であることは国際社会では当然だが、ロシア国内は厳しい情報統制が行われている。プーチン氏側近の発信は、軍の士気低下や世論に影響を与える可能性がある。身勝手な理屈はとっくに破綻していると自覚すべきだろう。

 侵略が始まって1年4カ月。ウクライナの反攻が本格化し、双方に多くの犠牲者が出ている。今月上旬に起きたウクライナ南部のダム決壊に伴う大洪水は、家屋の浸水など今も被害は広がっている。特にロシアの支配地域は国連などが立ち入れず、被害実態も明らかでない。

 日本を含む国際社会は一層結束し、支援を強めたい。

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