44歳シングルマザー「働かなくなった時の老後資金が足りるか不安」お金のプロのアドバイスは?

厚生労働省が発表した、「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果」によると、ひとり親世帯の平均年収は母子世帯の平均年収が373万円、父子世帯が606万円。子どものいる世帯全体の平均年収が814万円なので、母子世帯の平均年収は、子どものいる世帯の平均年収の半分以下となり、収入の差が浮き彫りになりました。

ファイナンシャルプランナーの筆者のもとに、小学生の子どもを育てる、40代のシングルマザーの方が、子どもが独立し、ご自身も退職した後、お金の不安なく安心した老後を過ごせるか不安だ、とご相談にいらっしゃいました。


小学生の子ども一人を持つシングルマザー。現在は仕事をしていて収入もあり、親が子育ても手伝ってくれるので生活できています。ただ、将来自分が働かなくなった時に自身の老後資金が足りるのかが不安です。お金の不安なく老後を過ごすには、どうすればいいでしょうか?

【相談者プロフィール】

性別:女性

年齢:44歳

職業:保育士(60歳退職予定)

家族構成:11歳の女の子(小学校5年生)

住居:建物は持ち家(親から贈与)、土地は借地

【収入】

手取り収入合計:年間約300万円

毎月の世帯の手取り収入の金額:手取り額月20万円

世帯の手取りボーナス(年2回)の金額:手取り額年50万円(25万円×2回)

元夫からの養育費 月3万円(子どもが独立するまで)

子ども手当 月1万円(子どもが中学卒業まで)

退職金:200万円

【毎月の世帯の支出額の目安】

生活費合計:月15万5,000円 年間約200万円

(内訳)

住居費:2万円(地代)

食費:3万円

光熱費:1万5,000円

通信費:1万5,000円

雑費日用品費:1万円

お小遣い:2万円

ペット代:5,000円

教育費(習い事代含む):2万円

車両費:1万円

保険料:1万円

(その他)

旅行代(年1~2回):10万円

【世帯の資産状況】

銀行普通預金:600万円

【ご希望】

子どもが独立するまでは毎年一緒に旅行がしたい

子どもへの結婚と住宅援助は500万円で考えている

現在は借地権付きの住居であるため、将来的には解体・売却し、子どもに迷惑をかけないようにしたい

相談者の方の現状をもとに、希望を叶えるために何が必要なのか見ていきましょう。

退職後の60歳から年間の家計収支が赤字に

44歳、職業は保育士で年間の手取り収入が約300万円。小学5年生の11歳の女の子と2人暮らしのため、食費などの生活費はさほどかかりません。現在600万円の貯蓄と60歳で退職するまでの16年間は年平均約100万円の貯蓄が可能です。現役時代は、合計約2,400万円の貯蓄が可能ということになります。

しかし、60歳で退職した後は、家計の年間収支が100歳まで毎年赤字になります。100歳時点でのトータル収支は250万円。これだと病気や不測の事態があった時、お金が不足して困る可能性があります。

では、具体的な解決策について考えていきましょう。

60歳以降も安心して暮らせる資金をつくる

まず検討したいのが、退職のタイミングです。
60歳が退職ということですが、保育士という資格を活かして、退職後も働けないかどうかを検討しましょう。仮に、61歳から65歳までパートで1カ月10万円の収入があった場合、年間収支は赤字になるものの、働かない時よりも年間約50万円の赤字を縮めることができます。

また、資産構成は預貯金のみで、資産運用をしていません。生活防衛費として1カ月の支出×1年分の約200万円は預貯金として置いておき、それ以外の資金で資産運用を始めるのはいかがでしょうか。

相談者は、年間の手取り収入約300万円、年間の支出約200万円となり、現役時代は年間約100万円の貯蓄が可能となります。かつ現在預貯金が600万円あるので、家計の資産が投資に極端に偏ることなく65歳まで資産運用していくことが可能です。

仮につみたて投資月5万円とiDeCo月2万円(ともに年3%の運用)を65歳まで続けたとしましょう。運用すると21年間で約2,450万円まで資産が増えますが、この月7万円を運用せずに預貯金に回した場合は1,760万円と、運用した場合としなかった場合では、約690万円の差が出ます。さらに、iDeCoは掛け金に税制の優遇がありますので、節税効果もあります。

資産運用をするか、しないかで大きな差が生まれるのがわかりますね。

子どもが独立するまでの生活プラン、見直すポイントは?

現在、子どもが11歳。独立する22歳までの約10年間に、万一のことがあった時に備えましょう。

現時点で亡くなられた場合、子どもは900万円の保障が必要となります。10年間、1,000万円の死亡保障のある掛捨て保険を検討されてはいかがでしょうか。健康状態などにもよりますが、月2,000円ほどで加入可能な保険もあります。子どもが独立するまで養育費として月3万円入ってくるお金がありますので、そこから万一の時に備えられてはいかがでしょうか。

また、子どもが独立するまで一緒に旅行を楽しみたいと、毎年の旅行費として年間10万円の支出を予定されています。旅行費は毎月1万円ずつ生活用口座とは別に旅行積立することをおすすめします。生活用口座からお金を引き出すと、なくなった感覚になってしまいます。旅行代を気持ちよく支払うためにも、ぜひ旅行代は別口座での管理をしてみましょう。

子どもに残す資産と処分する資産の整理

また希望されている子どもへの結婚と住宅資金の援助として500万円は、つみたて投資やiDeCoを活用して資産運用を始めれば、準備可能な金額と考えます。ただ、もしも何か不測の事態が起きた場合には、援助資金の減額も必要です。子どもに援助をしすぎて贈与貧乏にならないように気を付けましょう。

注意点として、子どもに扶養の範囲内で生活費を都度渡す場合には、贈与税の課税対象にはなりませんが、資産運用でまとまった資金ができて、一括で子どもにお金を渡したい場合は、贈与税に気を付けましょう。子どもが一人っ子ということもあり、今から出来る準備はしてあげたいですね。

また、現在住んでいらっしゃる借地権付きの建物は、土地の固定資産税がかからないなど、費用面のメリットがあります。しかし、土地価格と共に地代が上がる可能性があること、その土地にはローンを組めない可能性があること、地主の代替わりがあった場合、関係性が希薄になってしまうなどのデメリットもあります。子どもが引き継ぐとなると少々管理が複雑になりますので、相談者の方が希望される通り、整理するのが妥当と考えます。

タイミングとしては70歳くらいで建物を解体し、地主に土地を返却するのはいかがでしょうか。解体の手配や引っ越し作業は体力を使いますし、賃貸契約も年齢を重ねると難しくなるなどの理由から、70歳くらいまでを目安とされるといいでしょう。解体費用を100万円とした場合でも、資産運用で準備しておけば十分支払える金額です。

このままシングルで過ごす場合、孤独を感じないように同じ世代のコミュニティに入って、セカンドライフを楽しむことも考えてみましょう。次の住まいとして、シニア向けの賃貸マンションに住むこともひとつです。家賃が月8万円の場合でも、現役時代にしっかり資産運用で準備しておくことで、100歳までトータル収支がマイナスになることなく、経済的に安心感をもって暮らしていくことができます。

さらに100歳まで1,000万円以上の貯蓄のある家計になっていますので、医療や介護で必要な資金もそこから出すことが可能となり、子どもに迷惑をかける心配もないでしょう。


母子家庭の平均年収は、子どものいる世帯の平均年収の半分以下であると最初に述べました。しかし、母子家庭の平均年収の373万円であっても、働いて収入がある間に、計画的に老後資金を準備することで安心して暮らしていくことが可能です。特に資産運用をするかしないかは、大きな分かれ道となりそうです。

現役時代に計画性をもって、老後へ向けた準備を始めましょう。

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