宅地復旧進まず「戻れない」「死を迎えて帰るのか?」帰還めぐり揺れる土石流被災者【現場から、】

2023年7月、静岡県熱海市伊豆山で起きた土石流災害からまもなく2年が経ちます。熱海市は立ち入りが禁止されている「警戒区域」について9月1日に解除する予定ですが、肝心のこの地区に住んでいた人たちの心は帰還をめぐり、揺れています。

2021年7月3日、大量の土砂が逢初川を下り、伊豆山のまちをのみ込みました。28人の尊い命が奪われ、被害を受けた建物は136棟に上りました。土石流災害からまもなく2年。124世帯217人がいまだ、避難生活を余儀なくされています。

<小松昭一さん>

Q.ご自宅はどちらですか?

「正面の2階建ての…」

小松昭一さん(92)。自宅を直して、再び伊豆山に住むことを決めています。

<小松昭一さん>

「最初からもうここに帰ってくるつもりでいたんですよ。業者だけ入ってもらって見積もり取って、どのくらい工費がどのくらいかかるんだという気持ちでずっとやってきたんですよ」

現場では、9月1日の警戒区域の解除に向けて、逢初川の改修工事や水道やガスなどのインフラの復旧作業が進んでいますが、ここに住んでいた被災者たちはそれぞれ複雑な思いを抱えています。

島優司さん(52)。熱海市の市営住宅で避難生活を送っています。

<島優司さん>

「これ、うちなんですけど、いままだそのままこのまま。洗濯機とかどかしてあるけど、家の形はこのまま。壁に穴が開いて。ふさいではありますけど」

自宅は一部損壊。2年間手付かずの状態です。

<島優司さん>

「戻りたい気はありますよ。いまでも変わらない。やっぱり子どもの頃から育ったところだし、離れたくない場所だし。だけど、戻れないっていうのが正直な話かな」

島さんの自宅付近は、道路や河川の改修もまだで、ライフラインの復旧のめども立っておらず、ふるさとに戻りたくても戻れないのが現状だと訴えます。

<島優司さん>

「どうしようもないですよね。僕たちにはどうにもできないから」

一方、92歳の小松さんは戻ることを決めながら、市の方針に振り回されていると訴えます。

<小松昭一さん>

「本当に行政何やってんだ?っていう形ですよ。不信感だらけですよ」

小松さんが不信感を抱いているのは、熱海市の掲げる宅地復旧に対する補助金制度です。以前、市は被災した宅地をいったん市が買い取り、分譲する方式を住民に示していましたが、被災者自ら宅地を造成し、復旧費用の9割を補助する方式に方針転換。しかし、6月に行われた熱海市議会で議員から“説明不足”を指摘され、一度は提出した関連費用を盛り込んだ補正予算案を取り下げました。

6月23、24日に行われた住民説明会。二転三転する市の方針に、小松さんもたまらず説明を求めました。

<小松昭一さん>

「帰るまでに宅地の復旧工事をして、帰れるようにしたいんですよ。申請がいつ頃だったらできるのか、いまいってるのは市議会の承認を得てっていってるといつになるんですか。工事はできないんですか?」

<熱海市 濱島憲一郎復興調整室長>

「この時点ではお知らせできないので申し訳ありません」

熱海市の方針は迷走している上に説明も不十分だと、住民の不満が爆発しました。

<土石流災害で母親を失った太田朋晃さん>

「なんでこうやって(要望書を)渡すか分かりますか。個々におうかがいに行っても聞いてもらえないから、この場で市長に渡すんですよ」

<小松昭一さん>

「わたしたちも帰りたいけれど手は付けられないっていうので、じゃあ本当にいつになったら帰れるんだと。いま92(歳)になろうとするんですわ。これ以上あそこに避難生活をさせられたって、これから先じゃどうなっちゃった?死を迎えて帰るのかってね。切実な問題ですよ」

<島優司さん>

「分かりますよ。みんなが噛みつく気持ちが。不安になる気持ちっていうのがね。僕も不安で、そこから先どうなるのか。確かに行政の方たちはいろんなことをやってくれてますよ。住むところも提供していただいて。こうやっていろんなことをやっていただいてますけど、感謝はしてますけど。ただ、何ひとつ変わってない。何も変わらない」

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