【WEB版】「恋空」ロケ地、50円の観覧車...鹿沼・千手山公園が愛される理由

千手山公園の園内

 2007年にヒットした映画「恋空」のロケ地として有名な栃木県鹿沼市の「千手山(せんじゅさん)公園」。小高い山を利用した公園で、敷地内には観覧車や「おとぎ電車」などの遊具がある。鹿沼の街並みを見渡せる眺望もさることながら、1回50円以下で楽しめる遊具の料金設定も魅力だ。物価高が続き、家庭のやりくりが厳しさを増す中、子連れの来園者たちからは「安くて助かる」という声が多く聞こえてきた。

 千手山公園は1948年、市制施行の記念事業で整備された。園内に植えられたサクラは約300本を数え、ツツジは何と約1千本。市民の憩いの場は、春の訪れを告げる花の名所としても親しまれている。

レトロな雰囲気

 日曜日の6月18日、園内を歩いた。「宇宙戦艦ヤマト」など昭和のアニメソングが流れ、レトロな雰囲気が漂っている。

 第3日曜日は鹿沼市民を対象に150円分の「無料のりもの券」が配られる。この日も午前10時前から、遊具の運転を心待ちにする親子連れの姿が見られた。

 鹿沼市上殿町、パート従業員奈良ゆきのさん(38)は娘のみつきちゃん(4)と来園した。公園との関わりは「小学5年の上の子が2、3歳の時から」というから10年近い。経験から「小学校に入るまでは十分に楽しんでもらえる」と太鼓判を押す。そしてやはり魅力に「安さ」を挙げた。「月1回無料なのもありがたい」と声を弾ませた。

 「もう1回乗りたい」。両親が仕事のため、祖父母と遊びに来た鹿沼市内の兄(8)と弟(5)。回転遊具の「ジェットスター」から降りて、またすぐに駆け込んだ。1回の利用料が安いから、思う存分遊ぶことができるという。

 千手山公園管理事務所によると、交流サイト(SNS)で「遊具が安い」という内容が拡散されるなどした影響で、近年、市外や県外からの来園者も少なくないそうだ。

 千葉県柏市あけぼの2丁目、会社員中村優さん(29)は妻と2歳半の男児と足を運んだ。「まるで昭和にタイムスリップしたかのよう。流れる音楽や料金といい、こんな場所がまだ残っているなんて驚きました」。

 子どものころ、祖父母に連れられて来たという日光市土沢、僧侶倉松宗道さん(37)は、階段の多い園内の風景を懐かしそうに眺めた。「当時とあまり変わっていない。思い出の場所なので変わらないまま残ってほしい」と願った。傍らには5歳の娘の姿が。孫として訪れた場所を、今は父親として巡っている。

昔は動物のお友達も

 観覧車で来園者をもてなしていたのは、10年近く園長を務めている長倉常男さん(70)。鹿沼市で育った長倉さんにとって、今の職場は、かつて遠足や校外学習で訪れた場所でもある。「当時はメスの『ハナコ』というクマがいたんだ。シカやタヌキ、ニホンザルもいたかな」と、子どものころの記憶をたどってくれた。観覧車の料金は、わずか20円だった時代もあったそうだ。

 とはいえ今でも十分、手頃に楽しめる。長倉さんも「園の最大の特長はやっぱり安さ」と自認する。それでも急激な物価高など、社会情勢の変化は意識せざるを得ない。「遊具の点検費用も安くはない」と気をもむこともある。

 子どもも大人も楽しめ、市内外から愛される千手山公園。ツツジの時期は特に多くの人を惹きつけるが、いつ訪れても四季折々の表情で迎え入れてくれる。もともと消防職員だった長倉さんは、「何かと忙しかった日々とは違い、季節の移ろいを感じながらここでの時間を過ごしている」と話す。この公園とともに歳をとっていくのも悪くない-。価格だけでははかれない園の価値を、垣間見た気がした。

回転遊具の「ジェットスター」
千手山公園の園内
鹿沼の街並みを見渡せる観覧車
20円の「のりもの券」

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