大阪の私立高校完全無償化案、兵庫の私立高から批判 大阪の生徒分、学校が一部負担「兵庫の生徒に不公平」

大阪府が進める高校授業料の無償化案について、懸念を示す灘高校前校長の和田孫博さん=神戸市東灘区魚崎北町8

 大阪府が2024年度からの導入を目指す高校授業料完全無償化の素案を巡り、兵庫県内の私立高校に波紋が広がっている。大阪から生徒を受け入れる場合、年間授業料が60万円を超える分は学校負担となるためだ。「私立高の経営はもともと厳しい。収入が減ると教育の質の低下につながる」。半世紀近く私学の雄・灘高(神戸市東灘区)に身を置く元校長は懸念を示す。(上田勇紀)

 6月19日、大阪市内であった近畿2府4県の私学団体による意見交換会。出席した灘高の参与で前校長の和田孫博さん(71)は府の完全無償化案を「兵庫の生徒にも不公平になる」と批判。ほかの参加者からも反対や懸念の声が相次いだ。

 現行制度は、府民が府内の私立高に通う場合、年収590万円未満の世帯は、府が設定した「標準授業料」(年60万円)分を国と府が出す。590万円以上、910万円未満の世帯では、年収や子どもの数に応じて拠出。910万円以上の世帯に補助施策はない。

 素案では、年収による格差を撤廃。どの世帯でも年60万円までは国と府が出す一方、60万円を超える分は学校が負う。さらに、この仕組みを府外の私立高に通う場合にも適用する-というものだ。

 完全無償化は4月の統一地方選で政治団体・大阪維新の会が公約に掲げ、代表の吉村洋文府知事は「大阪の全ての生徒が学びたい場所で学べるようにすべきだ」と話す。24年度に高校3年生、25年度に高2~3年生、26年度に全学年での導入を目指す。

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 府によると、標準授業料の年60万円は、年間授業料に施設整備費など全ての生徒が一律で納付するものを加えたもの。入学金などは含まない。

 灘高の場合、授業料は年48万円(現1年生から適用)だが、施設維持費や冷暖房費、生徒会費などを別に年20万4千円集めている。合わせると68万4千円。集まる経費によっては、標準授業料に含まれないケースもあるが、府の設定した60万円を超える可能性がある。

 全国屈指の進学校として知られる同高には、生徒約660人のうち3割に当たる約200人が大阪府内から通学。200人分だと年間最大で1600万円程度が学校負担、つまり収入減となる恐れもある。

 和田さんは「それだけ収入が減れば、何らかの形で出費を抑えないといけない。デジタル化に伴う機器の買い替えを遅らせたり、生徒が読みたい本の購入を見送ったりと、さまざまな面で影響が考えられる。制度導入が教育の質の低下につながる」と懸念する。

 兵庫県内には大阪から生徒を受け入れている学校が多くある上、導入すればその数が増える可能性もあり、影響は大きい。和田さんは「完全無償化は理念としては賛成だが、大阪府の施策によって兵庫を含めた生徒たちの教育の質が下がるのは本末転倒だ」と話す。

 県内私立高51校が加盟する兵庫県私立中学高等学校連合会(神戸市中央区)によると、県内の授業料平均は年間約45万円だが、施設整備などそのほかの費用は学校によってさまざまなため、額を取りまとめていないという。大阪府は「賛同してもらえる学校にだけ参加してもらう形を想定している」とし、近く同連合会に素案を説明。8月をめどに制度案をまとめる。

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